【実践ワーク】チームでアイデアや情報を整理する親和図法ワークショップ
親和図法(Affinity Mapping)は、大量の雑多な情報を、関係性の近いもの同士でグループ化し、構造的に整理するための強力なツールです。ブレインストーミングで出たアイデア、ユーザーインタビューで得られた発言、チーム内の課題リストなど、様々な種類の情報を整理し、共通理解を深め、次のアクションへと繋げるのに役立ちます。
本記事では、チームで実践できる親和図法ワークショップの手順と、効果的に実施するためのポイントを解説します。
親和図法ワークショップの目的
親和図法ワークショップは、主に以下の目的で実施されます。
- チームで共有している情報やアイデアを構造的に整理する。
- 情報間の隠れた関連性やパターンを発見する。
- チームメンバー間で情報の共通理解を深める。
- 整理された情報から本質的な課題や重要なテーマを特定する。
- 次のアクションや意思決定のための土台を築く。
親和図法ワークショップの参加者と準備
- 参加者: ワークショップの対象となる情報を共有しているチームメンバー全員が参加することが望ましいです。部門横断チームなど、多様な視点を持つメンバーが集まるほど、新たな発見が得られやすくなります。
- 所要時間: 情報の量やチームの人数にもよりますが、一般的に60分から120分程度を見込んでください。準備時間と振り返り時間も考慮に入れます。
- 準備物:
- 整理対象となる情報(事前にテキスト化されていると望ましい。例: ブレストのアイデア一覧、インタビュー議事録など)
- 付箋(一人あたり数十枚程度、色分けできるとさらに良い)
- 油性ペン(黒など、濃い色で太めのもの)
- 模造紙または広いホワイトボード、壁などのスペース
- 必要に応じて、情報を付箋に書き出すためのPCやタブレット
- (オンラインの場合)Miro, Mural, FigJamなどのオンラインホワイトボードツール
親和図法ワークショップの手順
以下に、一般的な親和図法ワークショップの手順を解説します。
ステップ1: 情報の書き出し (15-20分)
- 目的: 整理対象となる個々の情報やアイデアを、一つずつ付箋に書き出します。
- 進め方:
- 参加者は、事前に準備された情報ソース(議事録、リストなど)を見ながら、重要だと思うこと、気になること、一つ一つのアイデアや意見などを、付箋1枚に1つの項目として簡潔に書き出します。
- 付箋は後でグルーピングするため、あまり長くならないように、キーワードや短いフレーズで表現します。
- この段階では、内容の善し悪しや実現可能性は評価しません。純粋に情報を抽出し、可視化することに集中します。
- 書き出した付箋は、後で扱いやすいように、テーブルの上などに一時的に置いておきます。オンラインツールの場合は、各自がツール上のキャンバスに直接書き出します。
ステップ2: 付箋の共有と配置 (5-10分)
- 目的: 書き出した全ての付箋を壁やホワイトボードに貼り出し、全体像を共有します。
- 進め方:
- 参加者は、書き出した付箋を一つずつ手に取り、読み上げながら壁やホワイトボードの空いているスペースに貼っていきます。
- この段階では、関連性を考えずにランダムに貼っても構いません。全ての情報が物理的に可視化されることが目的です。
- 貼る際に簡単な補足説明を加えても良いですが、長い議論は避けます。オンラインツールの場合は、各自がキャンバスに書き出した付箋が全員に共有されます。
ステップ3: グルーピング (20-30分)
- 目的: 貼られた付箋を、内容が似ているもの、関連性が高いもの同士でまとめてグループを作ります。
- 進め方:
- 黙って移動: 参加者全員で、貼られた付箋を見て回ります。内容的に関連があると思う付箋を見つけたら、黙ってその付箋を移動させ、近くにまとめていきます。
- 理由の説明は後で: なぜその付箋をそこに移動させたか、なぜそのグループに入れたかの理由は、この段階では説明しません。直感や解釈で移動させます。
- グループの基準: グルーピングの基準は、内容的な類似性、因果関係、同じテーマについて語っているかなど、様々です。明確な正解はありません。
- 自由な移動: 他の人が作ったグループに自分の付箋を追加したり、既存のグループを分割したり、別のグループの付箋を移動させたりと、自由に付箋を移動させます。
- 飽和状態まで: 全員が「これ以上、動かす付箋はないな」「このまとまりで良さそうだ」と感じるまで、付箋の移動を続けます。完全に意見が一致しなくても構いません。オンラインツールの場合は、カーソルを動かしながら他の参加者の動きを見て、同時に付箋を移動させます。
ステップ4: グループのラベリング (10-15分)
- 目的: 作成された各グループに、そのグループ全体の内容を最もよく表す見出し(ラベル)を付けます。
- 進め方:
- チーム全員で、作成された各グループの内容を見ながら、そのグループが「何について語っているか」「共通するテーマは何か」を表す簡潔なラベルを考えます。
- ラベルは、グループ内の付箋の内容を包括的に説明するものであるべきです。
- 参加者間で話し合い、最も適切なラベルを決定します。ラベルも付箋や別の色のペンで書き出し、グループの上に貼ります。
- グループ分けやラベリングで意見が分かれた場合は、なぜそう思うのかを話し合い、合意形成を目指します。どうしても合意できない場合は、一時的に複数のラベル候補を併記したり、小さなサブグループに分けることも検討します。
ステップ5: グループ間の関係性の検討と全体構造化 (10-15分)
- 目的: 作成されたグループ同士の関係性(例: 原因と結果、上位概念と下位概念など)を検討し、情報の全体構造を把握します。
- 進め方:
- ラベル付けされたグループ全体を見ながら、異なるグループ間にどのような関連があるかを話し合います。
- 例えば、「課題」に関するグループが「原因」に関するグループに紐づいているかもしれませんし、「顧客ニーズ」に関するグループが「アイデア」に関するグループに繋がっているかもしれません。
- 必要に応じて、関連性の強いグループを物理的に近くに配置し直したり、矢印で関係性を示したりします。
- これにより、情報が単なるリストではなく、意味のある構造としてチーム全員に共有されます。
ステップ6: ワークショップの振り返りとネクストステップの確認 (5-10分)
- 目的: ワークショップで得られた洞察や気づきを共有し、今後のアクションを確認します。
- 進め方:
- 完成した親和図を見ながら、チームでどのような気づきがあったか、何が重要だと感じたかなどを話し合います。
- 特に、主要なグループや、関係性が強く見られた部分、意外だった点などに焦点を当てます。
- この親和図から、どのような課題が特定できたか、どのようなアイデアが特に有望かなどを議論し、次の具体的なステップ(例: 特定の課題の深掘り、アイデアのプロトタイピング、関連部署への共有など)を決定します。
- 作成した親和図は写真に撮るか、オンラインツールの場合はデータを保存し、チームメンバーがいつでも参照できるように共有します。
効果を高めるためのポイント
- 時間管理: 各ステップに時間制限を設けることで、ワークショップがだらけず、集中力を持続させることができます。
- 心理的安全性: 参加者が自由に意見を書き出し、付箋を移動させられるような、批判のない安全な雰囲気づくりが重要です。「黙って移動」のルールは、個人の意見の衝突を防ぎ、情報そのものに集中するのに役立ちます。
- 情報の粒度: 付箋に書き出す情報の粒度を揃えるように促します。大きすぎず、小さすぎず、一つの付箋が一つの明確な項目を表すようにします。
- ファシリテーション: ワークショップの目的を明確にし、手順をガイドし、議論を円滑に進めるファシリテーターの役割が重要です。全員が積極的に参加できているか、特定の意見に偏りすぎていないかなどを観察し、適宜介入します。
- 物理的な空間: 物理的なワークショップの場合、壁一面を使えるような広いスペースがあると、情報全体を見渡せてグルーピングがしやすくなります。
- オンラインツールの活用: リモートワークのチームや、後から情報の編集・共有を頻繁に行いたい場合は、オンラインホワイトボードツールが非常に有効です。付箋の作成、移動、グルーピング、ラベリング、エクスポートなどが容易に行えます。
まとめ
親和図法は、混沌とした情報を整理し、チームの共通認識を構築するためのシンプルかつ効果的なワークショップです。ブレインストーミングの成果を具体的なアクションに繋げたい場合、ユーザーの生の声からインサイトを得たい場合、チーム内の課題を体系的に把握したい場合など、様々なシーンで活用できます。
ぜひ、本記事で紹介した手順とポイントを参考に、チームで親和図法ワークショップを実践してみてください。情報を構造化することで、これまで見えなかった問題の本質や、革新的なアイデアの繋がりが見えてくるはずです。
次のステップとして、この親和図から特定された主要な課題やアイデアに対して、さらに深掘りするワークショップ(例:根本原因分析、アイデア評価ワークショップなど)を実施することを検討すると良いでしょう。