【実践ワーク】チームでプロジェクトの前提条件を明確にし、リスクを管理するワークショップ
プロジェクトや計画を進める際、私たちは様々な「前提」の上に成り立っていると無意識のうちに考えています。しかし、これらの前提が不明確であったり、チーム内で共有されていなかったりすると、予期せぬ問題やリスクが発生し、計画が頓挫する原因となることがあります。
本記事では、チームでプロジェクトの隠れた前提条件を洗い出し、共通認識を持ち、それらが崩れた場合のリスクを管理するための実践的なワークショップをご紹介します。このワークショップを通じて、計画の精度を高め、リスク発生を抑え、プロジェクトの成功確率を向上させることができます。
プロジェクトにおける「前提条件」とは何か?
プロジェクトや計画における前提条件とは、その計画を立案・実行する上で「真であると仮定している事柄」のことです。これらは、通常は明示的に議論されない、いわば「当たり前」として受け入れられている事柄が多い傾向にあります。
例えば、
- 特定の技術要素が問題なく利用できる
- 必要な外部ツールやサービスが安定稼働している
- 特定のキーパーソンがプロジェクトに参画し続けられる
- 予算や納期が厳守される
- 市場環境や競合の動きが大きく変化しない
などが挙げられます。これらの前提条件が崩れると、計画通りに進まなくなったり、大きな手戻りが発生したりする可能性があります。
特に危険なのは、チームメンバー間で前提条件が異なっているにも関わらず、それが認識されていない状態です。これにより、意思決定の際に衝突が起きたり、タスクの進め方で誤解が生じたりします。
前提条件明確化ワークショップの目的
このワークショップの主な目的は以下の通りです。
- 隠れた前提条件の可視化: 各メンバーが無意識に持っている前提を表面に出し、言語化します。
- チームでの共有と共通理解: 洗い出された前提条件をチーム全体で共有し、認識のズレを解消します。
- リスクの特定と評価: 前提条件が崩れた場合の影響や発生確率を評価し、潜在的なリスクを特定します。
- リスクへの対応策検討: リスクの高い前提条件に対して、事前に対策を検討し、計画に組み込みます。
ワークショップの手順
以下に、チームで実施するための具体的なワークショップ手順をステップ形式で解説します。
ステップ1: ワークショップの準備(10分)
- 目的の共有: なぜこのワークショップを行うのか、その重要性をチームメンバーに説明します。「見落とされた前提がプロジェクト失敗の原因となる可能性があること」「チームで前提を共有することで、リスクを減らし、計画の精度を上げられること」などを伝えます。
- 対象の確認: どのプロジェクト、どの計画フェーズについて前提条件を洗い出すのか、その範囲を明確に定義します。
- ツールの準備:
- 物理的なワークショップの場合: ホワイトボード、模造紙、付箋、ペン
- オンラインワークショップの場合: Miro、Mural、FigJamなどのオンラインホワイトボードツール、ビデオ会議システム
- 時間の見積もり: 参加人数や対象の複雑さにもよりますが、通常は60分から90分程度を確保します。
ステップ2: 個々での前提条件洗い出し(15分)
- 各参加者は、対象とするプロジェクトや計画を進める上で、「これは当たり前だ」「これが成り立たなければ計画は進まない」と考えている前提条件を付箋(またはオンライン付箋)に1つずつ具体的に書き出します。
- 書き出す際の視点の例を提示すると、より多くの前提が出やすくなります。
- 技術に関する前提(例: 「○○ライブラリは安定版として使える」「新しいクラウドサービスは既存システムと互換性がある」)
- 人員・スキルに関する前提(例: 「Aさんはこの分野の専門知識を持っている」「チームメンバー全員が新しいツールをすぐに習得できる」)
- 時間・スケジュールに関する前提(例: 「外部からの回答は○日以内に得られる」「タスクXは予定通り完了する」)
- コスト・予算に関する前提(例: 「追加費用は発生しない」「特定のツールは無料枠で利用できる」)
- 環境・ツールに関する前提(例: 「開発環境はいつでも利用可能」「特定の外部システムはメンテナンスされない」)
- 外部要因に関する前提(例: 「法改正は当面ない」「競合は追随してこない」)
- 顧客・ユーザーに関する前提(例: 「ユーザーはこの機能を求めている」「操作手順は理解してもらえる」)
- 他チーム・関係者に関する前提(例: 「他チームからの協力が得られる」「上司の承認はスムーズに下りる」)
- 「これは当たり前すぎるかな?」と思うようなことでも遠慮せずに書き出すよう促します。隠れた前提の中にこそ重要なものがある可能性が高いです。
ステップ3: 前提条件の共有とグループ化(15分)
- 一人ずつ、書き出した付箋を発表し、ホワイトボードやオンラインボードに貼り出していきます。
- 発表を聞きながら、他の参加者は「それはどういう意味か?」「なぜそう思うのか?」など、疑問点があれば質問し、前提の内容を明確にしていきます。
- 貼り出された付箋を見ながら、類似する内容のものをまとめてグループ化します。共通するテーマや領域ごとに整理すると、全体像が把握しやすくなります。
ステップ4: 前提条件の検証とリスク評価(20分)
- グループ化された前提条件を一つずつ取り上げ、チーム全体でその妥当性とリスクについて議論します。
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以下の観点で議論を進めます。
- 妥当性: その前提は客観的に見て本当に正しいか? 根拠はあるか?
- 発生確率: その前提が崩れる(成り立たなくなる)可能性はどの程度か?(高・中・低などで評価)
- 影響度: その前提が崩れた場合、プロジェクトにどのような影響があるか?(計画遅延、コスト増、品質低下など)その影響度はどの程度か?(大・中・小などで評価)
- 区分: これは前提条件か? それとも要件(満たすべき条件)か? 制約(受け入れざるを得ない条件)か? 区別が難しい場合もありますが、議論することでその性質を明確にします。
-
リスクの高い前提条件(発生確率と影響度がともに高い、またはどちらか一方でも非常に高いもの)に印をつけたり、色分けしたりして、重点的に管理すべきものとして認識します。
ステップ5: リスクへの対応策検討(20分)
- ステップ4で特定されたリスクの高い前提条件について、そのリスクを低減または管理するための具体的な対応策をチームでブレインストーミングします。
- 対応策の方向性の例:
- 検証: その前提が本当に正しいかを確認するための調査や検証を行う。
- 緩和: 前提が崩れても影響を少なくするための代替案や準備をする。
- 回避: 前提が崩れる可能性のあるアプローチそのものを避ける。
- 監視: 前提が崩れていないか、継続的に状態を把握する仕組みを作る。
- 出てきたアイデアを具体化し、誰が、何を、いつまでに行うか、といったアクションアイテムとして整理します。これらのアクションアイテムは、プロジェクトのタスクリストに追加する必要があります。
ステップ6: まとめと次のステップ(10分)
- ワークショップで洗い出された全ての前提条件、特にリスクの高いもの、そしてそれに対する対応策を文書としてまとめます。これはプロジェクト計画書やチームの共有ドキュメントに含めるべき重要な情報です。
- まとめられた内容をチームメンバー全員で再確認し、共通認識を強固にします。
- 今後、これらの前提条件をどのように管理していくか(定期的なレビュー、変更時の見直しなど)を確認し、次のステップを明確にします。
ワークショップの効果を出すためのポイント
- 参加者の多様性: プロジェクトに関わる様々な役割、背景を持つメンバーが参加することで、多様な視点からの前提条件を洗い出すことができます。
- 心理的安全性: どんな些細なことでも、あるいは「非常識では?」と思われるようなことでも、安心して「当たり前だと思っていたこと」を表明できる雰囲気づくりが不可欠です。
- ファシリテーション: タイムキーピング、全員が発言できる機会の提供、議論の脱線を防ぐ、前提条件と他の要素(要件、制約)の区別を促すなど、適切なファシリテーションがワークショップの成功を左右します。
- 記録と共有: ワークショップで決定・合意した内容は必ず文書化し、チーム全体がいつでも参照できる状態にしておくことが重要です。
まとめ
プロジェクトの前提条件を明確にし、チームで共有することは、潜在的なリスクを早期に発見し、計画の信頼性を高める上で非常に有効です。本記事でご紹介したワークショップは、比較的短時間で実施でき、チームの共通理解を深める効果も期待できます。
ぜひ、次のプロジェクトの開始時や重要な意思決定を行う前に、この「前提条件明確化ワークショップ」をチームで実践してみてください。隠れたリスクを顕在化させ、より堅牢で成功確率の高い計画を立てる一助となるでしょう。