【実践ワーク】課題解決のための選択肢を評価・選定するチームワークショップ
課題解決のためのチームでの取り組みにおいて、ブレインストーミングなどを通じて多くのアイデアや解決策候補が生まれることは素晴らしい第一歩です。しかし、次の重要なステップとして、「どの選択肢を実行に移すか」をチームで合意し、決定する必要があります。
複数の選択肢の中から最適なものを選ぶプロセスは、しばしば困難を伴います。感情的な好みや一部の強い意見に流されてしまったり、客観的な基準がないまま議論が迷走したりすることもあるでしょう。こうした状況を避けるためには、体系的で論理的な評価・選定プロセスをチームで実践することが有効です。
本記事では、チームでブレストした複数の解決策候補を、共通の基準で評価し、納得感を持って最適な選択肢を選定するための実践的なワークショップ手順をご紹介します。
なぜ選択肢の評価・選定が難しいのか
解決策の評価・選定プロセスが難航する主な理由には、以下のようなものがあります。
- 評価基準の不明確さ: 何を重視して選ぶべきか、チーム内で基準が共有されていないため、議論が発散します。
- 主観や感情の影響: 客観的な事実やデータではなく、個人の経験や感情に基づいた判断が優先されることがあります。
- 情報不足: 各選択肢を実行した場合の効果やリスクについての情報が不十分で、比較検討が難しい場合があります。
- 合意形成の難しさ: 異なる意見を持つメンバー間で、全員が納得できる結論に至るのが困難なことがあります。
- 決定プロセスの不透明性: どのように決定が下されるのかが不明確だと、メンバーの納得感が得られにくくなります。
これらの課題に対処するためには、チーム全体で共有された評価基準と、体系的なプロセスに沿ったワークショップが有効です。
選択肢評価・選定ワークショップの目的と効果
このワークショップの主な目的は、チームで出した複数の解決策候補を、客観的な基準に基づいて比較検討し、最も効果的かつ実現可能な選択肢をチーム全体で合意・決定することです。
期待できる効果は以下の通りです。
- 客観的で論理的な意思決定: 感情や主観に左右されず、明確な基準に基づいた判断が可能になります。
- チームの納得感と当事者意識の向上: 評価・選定プロセスに全員が関与することで、決定に対する納得感が高まり、その後の実行への当事者意識が生まれます。
- 意思決定の迅速化: 体系的なプロセスがあることで、議論の迷走を防ぎ、効率的に結論に達することができます。
- 潜在的なリスクの発見: 各選択肢を詳細に評価する過程で、見落としていたリスクや課題が明らかになることがあります。
ワークショップの手順
ここでは、チームで実施できる具体的なワークショップ手順をステップごとに解説します。
ステップ1: 評価基準の明確化 (約30分)
まず、何をもって「良い選択肢」とするのか、チームで共通の評価基準を定めます。
- ブレインストーミング: 解決策を評価する上で重要だと思われる要素を、チーム全員で自由に挙げてもらいます(例: コスト、所要時間、期待される効果、実現可能性、技術的な難易度、運用負荷、リスク、顧客への影響、チームへの影響など)。
- 基準の選定と定義: 出された要素の中から、今回の課題解決において特に重要となる基準を3〜5つ程度に絞り込みます。選ばれた基準が具体的に何を意味するのか、チームで定義を統一します。例えば、「実現可能性」が高いとは具体的にどういう状態か、「効果」はどのように測定するかなどを話し合います。
- 基準の重み付け (任意): 必要に応じて、基準ごとに重要度の重み付けを行います(例: 効果が最も重要であれば3点、コストは2点、実現可能性は1点など)。これにより、総合的な評価の際に重要度を反映させることができます。
ステップ2: 各選択肢の評価 (約60分)
定めた評価基準に基づき、ブレストなどで出された各解決策候補を一つずつ評価します。
- 選択肢の確認: 評価対象となる解決策候補リストを改めてチームで共有します。それぞれの選択肢の内容が明確であることを確認します。不明点があれば、提案者に説明を求めます。
- 個別評価: 各メンバーが、各選択肢をステップ1で定めた基準に照らして評価します。評価方法としては、以下のようなものが考えられます。
- スコアリング: 各基準に対して定量的な点数(例: 1〜5点)をつけます。重み付けを行った場合は、基準の重みを考慮して合計点を算出します。
- 定性評価: 各基準に対して「◎△×」や「良い・普通・悪い」などで評価し、その理由を記述します。
- Pros/Cons リスト: 各選択肢のメリット(Pros)とデメリット(Cons)を基準ごとに書き出します。
- 評価結果の共有: 各メンバーの評価結果を持ち寄り、チーム全体で共有します。スコアリングの場合は集計結果を可視化します。定性評価の場合は、それぞれの評価とその理由を発表してもらいます。
ステップ3: 評価結果の議論と深掘り (約45分)
共有された評価結果について、チーム全体で議論を行い、理解を深めます。
- 評価の差異に関する議論: メンバー間で評価が大きく分かれた選択肢や基準に焦点を当て、なぜそう評価したのか、互いの視点を共有します。
- 懸念事項の特定と検討: 各選択肢を実行する上での潜在的なリスク、課題、不確実性について深く掘り下げて議論します。「これを実行すると何が起きるか?」「どのような準備が必要か?」などを具体的に話し合います。
- 情報の補足: 必要に応じて、議論の中で不足している情報(例: 関連データの確認、他部署への確認)を洗い出し、誰がいつまでに確認するかを決めます。
ステップ4: 最適な選択肢の選定 (約30分)
評価結果と議論を踏まえ、チームとして最も適切と判断される解決策を決定します。
- 選定方法の選択: チームの文化や状況に応じて、合意形成のための適切な方法を選択します。
- ドット投票: 各メンバーに数個の投票権を与え、最も支持する選択肢に投票してもらい、票が多いものを優先します。
- コンセンサス: 全員が「この選択肢ならば進められる」と合意できるまで議論を続けます。
- 少数精鋭: リーダーや意思決定権を持つメンバーが、チームの意見を参考に最終決定を行います。
- ハイブリッド: スコアリングの結果を参考にしつつ、最終的には議論で合意形成を図るなど、複数の方法を組み合わせることも可能です。
- 選択肢の決定: 選定方法に基づき、実行する解決策を最終的に決定します。選ばれなかった選択肢についても、今後の参考として記録しておくと良いでしょう。
ステップ5: 次のアクションの確認 (約15分)
選定した解決策を実行に移すための具体的な次のステップを確認します。
- アクションプランの概要確認: 選定した解決策を実行するために、最初に行うべき具体的なタスク、担当者、期日などを簡単に確認します。詳細な実行計画はこの後のフェーズで作成しますが、ワークショップの終わりに次へのつながりを明確にすることが重要です。
- 決定事項の共有方法: ワークショップで決定した内容を、関係者やチーム外にどのように共有するかを確認します。
ワークを成功させるためのポイント
- ファシリテーターの役割: ワークショップが円滑に進むよう、ファシリテーターが明確な指示を出し、時間管理を行い、全てのメンバーが発言しやすい雰囲気を作ることが重要です。特定の意見に偏らないよう中立的な立場を保ちます。
- 心理的安全性の確保: どんな意見や評価も安心して表明できる心理的に安全な場である必要があります。多様な視点や懸念事項が出やすくなり、より質の高い評価につながります。
- 評価基準の合意形成: 評価を始める前に、チーム全員が評価基準とその定義に納得していることが重要です。これにより、後々の議論のブレを防ぎます。
- 根拠に基づいた評価: 可能な限り、感覚ではなく、具体的なデータや事実、過去の経験といった根拠に基づいて評価を行うよう促します。
- 決定プロセスの透明性: どのような基準で、どのようなプロセスを経て決定が下されるのかを事前に共有しておくことで、決定に対する納得感が高まります。
- 時間の厳守: 各ステップに制限時間を設け、時間内に完了することを目指します。議論が脱線しそうになったら、ファシリテーターが軌道修正を行います。
ツールとテンプレート
このワークショップをオンラインまたはオフラインで実施する際に役立つツールや簡単なテンプレートをご紹介します。
- オンラインホワイトボードツール: Miro, Mural, FigJam などを使用すると、評価基準のブレインストーミング、各選択肢の評価結果の可視化(例: マトリクス形式)、ドット投票などを視覚的に行うことができます。
- スプレッドシート/表計算ソフト: 評価基準ごとのスコアリングや重み付け計算に便利です。簡単な評価マトリクステンプレートを事前に準備しておくと、スムーズに評価を進められます。
| 選択肢候補 | 基準A (効果: 重み3) | 基準B (コスト: 重み2) | 基準C (実現可能性: 重み1) | 合計点 (例: A3+B2+C1) | 備考・懸念事項 | | :--------- | :----------------- | :----------------- | :--------------------- | :------------------- | :------------- | | 選択肢X | 4点 | 2点 | 5点 | (43 + 22 + 51) = 21 | | | 選択肢Y | 3点 | 5点 | 3点 | (33 + 52 + 3*1) = 22 | | | ... | ... | ... | ... | ... | ... |
※これはあくまでテンプレート例です。チームの状況に合わせて項目や評価方法を調整してください。
まとめ
課題解決のための選択肢評価・選定ワークショップは、ブレストで生まれた多様なアイデアを、実行可能な具体的なアクションへと繋げるための重要なプロセスです。明確な評価基準の設定、体系的な手順、そしてチームメンバー全員の積極的な関与を通じて、より客観的で納得感のある意思決定が可能になります。
ぜひ、本記事でご紹介した手順を参考に、チームの課題解決力を一層向上させるための実践ワークとして取り入れてみてください。これにより、チームの意思決定の質が高まり、成果に繋がりやすくなるでしょう。