【実践ワーク】チームで代替案を評価・比較するワークショップ
はじめに
チームで問題解決に取り組む際や、新しい施策を検討する際には、しばしば複数の選択肢、すなわち「代替案」が生まれます。ブレインストーミングによって多くのアイデアを創出することは、創造的な解決策を見出す上で非常に重要です。しかし、それらの代替案の中から、現状の課題解決や目標達成のために最も適したものをどのように選び出すかは、多くのチームにとって難しい課題となります。
感情や主観に流されて意思決定を行ったり、特定のメンバーの意見に引きずられたりすると、最適な解決策を見逃したり、後になってその決定に疑問が生じたりする可能性があります。また、決定プロセスが不明瞭であると、チームメンバーの納得感が得られにくく、その後の実行段階でのエンゲージメントが低下する原因にもなりかねません。
本記事では、チームで複数の代替案を客観的かつ論理的に評価・比較し、合意形成に基づいた意思決定を行うための実践的なワークショップをご紹介します。体系的なアプローチを取り入れることで、チームの意思決定の質を高め、より効果的な問題解決を実現することを目指します。
代替案評価・比較ワークショップの目的
このワークショップは、以下の目的を達成するために設計されています。
- 複数の代替案を客観的な基準で評価する: 主観や感覚だけでなく、事前に合意した基準に基づき代替案の価値や実現性を評価します。
- 代替案間を論理的に比較検討する: 各代替案のメリット・デメリット、リスク、コストなどを多角的に比較し、違いを明確にします。
- チームとしての合意形成を促進する: 評価・比較プロセスを通じて、チームメンバー間で共通理解を深め、納得感のある意思決定を目指します。
- 根拠に基づいた意思決定を行う: なぜその代替案が最適なのか、その決定の根拠を明確にします。
ワークショップの参加者と準備
- 参加者: 代替案の評価と意思決定に関わるチームメンバー全員。必要に応じて、関連するステークホルダーや意思決定権者を招くことも有効です。ファシリテーターは、中立的な立場でワークショップを進行します。
- 所要時間: 代替案の数、複雑さ、チームの規模によりますが、概ね1時間半から2時間半程度を目安とします。ステップごとに時間を区切り、効率的に進めることが重要です。
- 準備:
- 評価対象となる代替案のリスト(事前に整理・明確化しておく)。
- 代替案の背景や詳細に関する情報(必要に応じて)。
- 評価マトリクスを作成・表示するためのツール(ホワイトボード、大型の紙、またはオンライン共同編集ツール例: Miro, Mural, Google Sheetsなど)。
- 評価軸を検討するための資料や議論のたたき台。
- 評価点を記入するためのペンや付箋など。
ワークショップの進め方(実践手順)
ステップ1: 評価軸の設定(推奨時間: 20-30分)
このステップでは、代替案を評価するための基準(評価軸)をチーム全員で合意し、明確にします。このステップは、その後の評価・比較の質を大きく左右するため、丁寧に行う必要があります。
- 評価に影響する要素の洗い出し: どのような側面から代替案を見るべきか、チームで自由に意見を出し合います。考慮すべき要素としては、目的との整合性、実現可能性、コスト(開発費用、運用費用)、期間、リスク(技術的リスク、ビジネスリスク)、ユーザーへの影響、保守性、スケーラビリティ、チームのスキルセットなどが挙げられます。
- 評価軸の定義: 洗い出した要素を整理し、具体的な評価軸として定義します。抽象的な言葉ではなく、「開発コスト(初期費用、運用費用)」、「実現期間(完了までの見込み期間)」、「期待されるユーザー価値向上率」のように、可能な限り測定可能または明確な言葉で定義します。各評価軸において、どのような状態が高評価で、どのような状態が低評価なのか、共通認識を持つことが重要です。
- (オプション)評価軸の重み付け: 各評価軸の重要度が異なる場合、重み付けを行います。例えば、「ユーザー価値」は「開発コスト」より重要度が高い、といった判断です。重み付けは、例えば1から5段階で各軸の重要度を決定するなど、チームで合意した方法で行います。
ステップ2: 評価マトリクスの作成(推奨時間: 5-10分)
代替案と評価軸を一覧化するためのマトリクスを作成します。
- マトリクスのフォーマット準備: 縦軸に評価対象の代替案、横軸に設定した評価軸を配置した表を作成します。 | 代替案名 | 評価軸A | 評価軸B | ... | 評価軸N | 総合評価 | コメント/懸念点 | | :------- | :------ | :------ | :-- | :------ | :------- | :-------------- | | 代替案1 | | | | | | | | 代替案2 | | | | | | | | ... | | | | | | |
- 代替案のリスト化: 事前に準備した代替案を縦軸に記入します。
- 評価軸のリスト化: 設定した評価軸を横軸に記入します。必要であれば、重み付けも合わせて記入しておきます。
ステップ3: 代替案の個別評価(推奨時間: 30-60分)
各代替案について、設定した評価軸ごとにチームで評価を行います。ここが議論の中心となります。
- 代替案ごとの評価: 順番に各代替案を取り上げ、それぞれの評価軸についてチームで議論し、評価点を記入します。評価は、例えば1点(低い)から5点(高い)のような段階評価や、A(非常に良い)からE(悪い)のようなランク評価など、チームで合意した尺度を使用します。
- 評価の根拠の明確化: なぜその評価点になったのか、その根拠を具体的に述べることが非常に重要です。客観的なデータ、予測、過去の経験などを参照し、主観的な印象だけでなく、論理的な理由を共有します。これにより、後から評価を見返した際にも、その判断に至った背景が理解できます。
- コメントや懸念点の記録: 評価点だけでなく、その代替案に関する特記事項、議論になった点、潜在的なリスク、追加で検討が必要な事項なども「コメント/懸念点」の列に記録します。これにより、単なる点数以上の情報が残り、後々の意思決定や実行計画に役立ちます。
- (オプション)重み付けの適用: 重み付けを設定した場合は、評価点に重みを乗じて「重み付け評価点」を算出します。
ステップ4: 評価結果の比較と議論(推奨時間: 20-30分)
マトリクスに記入された情報を基に、代替案全体を俯瞰し、比較検討します。
- 評価結果の確認: 各代替案の評価点、コメント、重み付け後の総合評価などを確認します。どの代替案がどの評価軸で優れているか、あるいは劣っているかを把握します。
- 代替案間の比較: 複数の代替案を並べて比較し、それぞれの強みと弱み、トレードオフなどを議論します。総合評価が高い代替案だけでなく、特定の評価軸で突出している代替案についても注目します。
- 意見の収束と深掘り: チーム内で意見が分かれている点や、評価が難しいと感じる点について、深掘りして議論を行います。必要であれば、追加情報の収集や、評価軸の再検討なども検討します。
ステップ5: 最適な代替案の選定と決定(推奨時間: 10-20分)
評価と比較の議論を経て、最終的に採用する代替案をチームとして決定します。
- 代替案の選定: 評価マトリクスと議論の結果に基づき、最も目的達成に貢献し、かつ実現可能性が高いと思われる代替案をチームで選定します。必ずしも総合評価点が一番高いものが常に最適とは限りません。議論を通じて、数値化しきれない要素やチームの直感を考慮することも重要です。
- 決定理由の明確化: なぜその代替案を選んだのか、その理由を明確に言語化し、チーム内で合意します。これにより、決定に対する納得感が高まります。
- ネクストステップの確認: 決定した代替案を実行に移すために必要な次のアクション(詳細設計、準備、担当者アサインなど)を確認し、共有します。
ワークショップの効果
このワークショップを実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 意思決定の質の向上: 客観的な基準と論理的な比較に基づいた意思決定が可能になります。
- 意思決定プロセスの透明性向上: 決定に至る過程がチーム内で共有されるため、なぜその決定になったのかが明確になります。
- チームメンバーの納得感とコミットメント向上: 決定プロセスに全員が関わることで、決定事項に対する納得感が深まり、その後の実行に対するコミットメントが高まります。
- 共通理解の促進: 代替案の評価・比較を通じて、チームの目的、課題、制約などに対する共通理解が深まります。
- 意思決定スピードの向上: 体系的なプロセスがあることで、迷いや手戻りが減り、より迅速な意思決定が可能になります。
成功のためのポイント
- ファシリテーターの役割: ファシリテーターは、議論が脱線しないように、全員が公平に意見を述べられるように、そして時間管理を徹底するように進行します。特定の代替案を擁護したり、評価を誘導したりしない、中立的な姿勢が求められます。
- 評価軸の質: 評価軸の定義が曖昧であったり、重要でない軸に時間をかけすぎたりすると、ワークショップの効果が薄れます。事前に主要な評価軸のたたき台を用意しておくとスムーズです。
- 評価基準の明確化: 各評価軸における評価点(例: 5点とはどういう状態か)の基準を事前に明確にしておくと、評価者間のばらつきを抑えることができます。
- 「なぜ」を問う習慣: 評価点を付けたり、意見を述べたりする際に、「なぜそう評価するのか」「なぜそう思うのか」と根拠を問う習慣をつけます。これにより、議論が深まり、より客観的な評価が可能になります。
- 完璧を目指さない: 全ての代替案を完璧に評価することは困難です。現時点で入手可能な情報とチームの知見に基づき、最も妥当な判断を下すことを目指します。
注意点
- 代替案の数: 代替案が多すぎると、評価・比較に時間がかかりすぎ、チームの集中力が続かなくなります。必要に応じて、事前にいくつかの代替案に絞り込んでおくことも検討します。
- 議論の偏り: 特定のメンバーが強く主張したり、議論が特定の代替案の粗探しや無理な擁護に終始したりしないように、ファシリテーターが適切に介入します。
- 「良い」代替案がない場合: 評価の結果、どの代替案も魅力的でない、あるいは深刻な問題を抱えていると判明することもあります。その場合は、無理に意思決定せず、代替案の再検討や、問題定義に戻ることも視野に入れます。これはワークショップの失敗ではなく、早期にリスクを発見できた成果と捉えます。
まとめ
チームでの意思決定は、その後の成功に大きく影響します。特に複数の代替案が存在する場合、感情や主観に流されず、客観的な基準に基づき、論理的に評価・比較するプロセスが不可欠です。
本記事でご紹介したワークショップは、チームが一体となって代替案を評価し、納得感を持って最適な解決策を選択するための体系的なフレームワークを提供します。評価軸の設定、評価マトリクスの活用、根拠に基づいた議論といったステップを丁寧に踏むことで、意思決定の質を高め、チームの総合的な問題解決能力を向上させることが期待できます。
ぜひ、皆様のチームでこのワークショップを実践し、より効果的な意思決定を通じて、目標達成へと繋げてください。