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【実践ワーク】チームの認識のズレを解消する共通理解ワークショップ

Tags: チーム開発, ワークショップ, コミュニケーション, 認識合わせ, 共通理解

なぜチームの認識合わせが重要なのか

ソフトウェア開発やプロダクト開発において、チームメンバーや関係者間での「認識のズレ」は、さまざまな問題を引き起こす根本原因の一つとなり得ます。例えば、要件定義におけるわずかな解釈の違いが、後工程での大規模な手戻りを招いたり、開発された機能が期待したものと異なったりすることがあります。

特に、異なる役割(エンジニア、デザイナー、プロダクトオーナー、テスターなど)を持つメンバーが集まるチームでは、それぞれの専門性や視点から物事を捉えるため、意図せず認識のギャップが生じやすい傾向があります。このギャップを放置すると、コミュニケーションロス、非効率な作業、品質低下、さらにはチーム内の不信感へと繋がる可能性もあります。

本記事では、こうした認識のズレを意図的に解消し、チーム全体で一つのテーマに対する共通理解を深めるための具体的なワークショップ手法をご紹介します。このワークショップは、チームの生産性向上と手戻り削減に大きく貢献するでしょう。

共通理解ワークショップの目的と概要

このワークショップの主な目的は、特定のテーマ(例: 新機能の要件、技術選定、特定の課題)について、参加者それぞれの理解度や前提知識、疑問点などを共有し合い、最終的にチーム全体として高いレベルの共通理解を築くことです。

ワークショップの準備

ワークショップを効果的に実施するために、以下の準備を行います。

  1. テーマの選定: ワークショップで共通理解を深めたい具体的なテーマを一つ選びます。抽象的すぎず、かつチームとして認識を合わせる必要性が高いテーマを選びましょう。
  2. 参加者の選定: テーマに関連する全ての主要な関係者が参加できるように調整します。
  3. ツールの準備:
    • 物理的な場所で実施する場合: ホワイトボード、付箋、ペン
    • リモートで実施する場合: オンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)、ビデオ会議ツール
  4. ファシリテーターの選定: ワークショップの進行役を務めるファシリテーターを決めます。ファシリテーターは、参加者全員が発言しやすい場を作り、時間を管理し、議論を適切な方向に導く役割を担います。
  5. 事前共有: 可能であれば、ワークショップのテーマと目的を事前に参加者に共有し、テーマについて各自である程度考えてきてもらうよう依頼します。

ワークショップの手順

ステップ1: テーマの共有と導入 (5-10分)

ステップ2: 各自の現状理解の共有(サイレントワーク) (10-15分)

ステップ3: 付箋の貼り出しと共有 (10-15分)

ステップ4: グループ化と議論の焦点設定 (10-15分)

ステップ5: 対話と質疑応答 (30-45分)

ステップ6: 共通理解の確認とまとめ (5-10分)

効果を出すためのポイント

具体的なケーススタディ

シナリオ: 新しい検索機能を開発するチーム。プロダクトオーナー、デザイナー、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、QAエンジニアが参加。

テーマ: 新しい検索機能の「あいまい検索」の挙動に関する共通理解

ワークショップの実施:

  1. テーマ共有: 「新しい検索機能のあいまい検索が、具体的にどのようなキーワードでどのような結果を返すか」について認識を合わせることを宣言。
  2. 現状理解の共有:
    • プロダクトオーナー: 「ユーザーは入力した単語に少し間違いがあっても、関連性の高い結果が出ると期待している」
    • デザイナー: 「サジェスト機能と連携して、タイプミスを補正するイメージ」
    • フロントエンド: 「バックエンドから返ってきた結果を表示するだけだが、キーワードの強調表示は必要か?」
    • バックエンド: 「形態素解析を使うか、N-gramを使うか?完全一致でヒットしない場合に限定するか?」
    • QA: 「どのような誤字まで許容されるか、具体的なテストケースをどう設計するか不明」
    • ...といった多様な付箋が貼り出される。
  3. グループ化: 「期待される挙動」「技術的な実装方法」「テスト観点」「UIとの連携」などのグループができる。特に「期待される挙動」と「技術的な実装方法」の間にギャップがあることが明らかになる。
  4. 対話: プロダクトオーナーはユーザーの期待を、バックエンドエンジニアは技術的な実現可能性とコストを説明。QAは具体的なテストケースの例を提示し、可能な範囲と不可能な範囲について質問。デザイナーはUI上での挙動について補足。
  5. 共通理解の確認: 「入力された単語の文字数の〇%以内の違いであれば、関連性の高い候補をサジェストとして提示し、ユーザーに選択を促す」「完全に一致しない単語でも、〇〇のルールに基づいて検索結果に含める(ただし件数は絞る)」など、具体的な挙動の定義や、技術的な制約、今後の検討事項(例: 特定の誤字リストを作成するかどうか)が明確になり、参加者全員でその理解を確認する。

このワークショップを通じて、各メンバーが持つ断片的な情報や前提、懸念が共有され、曖昧だった部分が具体化されます。その結果、その後の設計や実装、テストがよりスムーズかつ正確に進むことが期待できます。

まとめ

チームの認識合わせのための共通理解ワークショップは、一見地味に見えるかもしれませんが、開発プロセスにおける手戻りやコミュニケーションコストを削減し、チーム全体の効率と品質を高める上で非常に強力な手法です。特に複雑な要件や新しい技術に取り組む際に、定期的にこのワークショップを実施することで、チームは常に同じ方向を向き、共通の理解レベルで作業を進めることができます。

ぜひ、皆さんのチームでもこのワークショップを試してみてください。チームメンバー全員で知識や視点を共有し、より強固な共通理解を築くことから、多くの問題が未然に防がれることを実感できるはずです。