【実践ワーク】チームで複雑な問題の構造を可視化し、本質を見抜くワークショップ
複雑な問題に立ち向かうチームのための構造可視化ワークショップ
チームで業務を進める中で、原因が一つではない、複数の要素が絡み合った複雑な問題に直面することは少なくありません。こうした問題は、表面的な対策だけでは根本的な解決に至らず、対応が後手に回りがちです。また、チーム内で問題に対する認識が異なっていると、効果的な議論や意思決定が難しくなります。
本記事では、チームで複雑な問題の「構造」を可視化し、その本質を理解するための実践的なワークショップ手法をご紹介します。このワークを通じて、問題に関わる要素間の相互作用やつながりを明確にし、より効果的な解決策の検討に繋げることができます。
なぜ問題の構造理解が重要なのか
複雑な問題は、単純な因果関係ではなく、複数の要素が相互に影響し合って発生しています。例えば、「ソフトウェアのバグが多い」という問題一つをとっても、開発速度、テスト体制、要件定義の精度、チーム間のコミュニケーション、技術的負債、個々のメンバーのスキルなど、様々な要因が複雑に絡み合っている可能性があります。
こうした状況で、特定の表面的な原因(例: テスト不足)だけに対処しても、他の要因が問題を引き起こし続けるため、根本的な改善には繋がりにくいのです。問題の構造を理解することは、以下の利点をもたらします。
- 全体像の把握: 問題に関わる全ての要素とその関係性を一覧できます。
- 本質的な原因・要素の特定: 表面的な現象だけでなく、問題を引き起こしている根本的な原因や、影響力の大きい要素を見つけやすくなります。
- 共通理解の醸成: チームメンバー間で問題に対する認識を合わせ、議論を促進します。
- 効果的な打ち手の検討: 構造全体を見た上で、どこに働きかけるのが最も効果的か、どのようなリスクが考えられるかを検討しやすくなります。
ワークショップの目的
このワークショップは、チームで特定の複雑な問題を選び、以下の状態を目指すことを目的とします。
- 問題に関わる主要な「要素」を洗い出す。
- 要素間の「関係性」や「影響」を明確にする。
- 要素と関係性を図として「可視化」し、構造を把握する。
- 可視化された構造から、問題の本質についてチームで共通認識を持つ。
ワークショップの進め方(手順例)
このワークショップは、オンラインまたはオフラインで、ホワイトボードや模造紙、またはオンラインホワイトボードツール(Miro, FigJamなど)を使用して実施できます。推奨時間は60分〜90分程度です。
準備
- 大きな描画スペース(ホワイトボード、模造紙、オンラインツール)
- 要素や関係性を書き出すためのツール(付箋、ペン、オンラインツールの図形やテキスト機能)
- 参加者(問題に関わるチームメンバー全員が理想的です)
手順
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問題設定と範囲の明確化 (10分)
- チームとして解決したい、または理解したい「複雑な問題」を一つ選びます。
- その問題の「範囲」を明確に定義します。「何について議論し、何を議論しないか」の境界線を決めます。
- ホワイトボードの中央や上部に、問題のタイトルを記入します。
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主要な要素の洗い出し (15分)
- 問題に関係していると思われる、人、物、情報、イベント、概念、数値など、あらゆる「要素」をチームメンバー各自でブレインストーミングします。
- 一人ずつ発表しながら、要素を付箋やオンラインツールのテキストボックスに書き出し、ホワイトボード上にランダムに配置していきます。
- この段階では、質より量を重視し、思いつく限り多くの要素を出します。他のメンバーのアイデアから連想を広げることも推奨します。
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要素間の関係性の特定と描画 (20分)
- 洗い出した要素を見ながら、「AがBに影響を与えている」「Cが増えるとDが減る」といった、要素間の「関係性」や「影響」を議論します。
- 関係性が見つかったら、該当する要素間を線や矢印で繋ぎます。影響の方向性がある場合は矢印を使用します。
- 関係性の「種類」(例: 増加させる、減少させる、引き起こす、依存するなど)を線の近くに書き添えると、構造の理解が深まります。
- 例えば、「開発速度が高い」→「バグの数が多い」という矢印を描き、「促進する」と書き添えるなどです。
- 全ての要素間の関係性を描く必要はありません。重要と思われる関係性や、議論になった関係性を中心に描きます。
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構造図の整理と分析 (20分)
- 描かれた要素と関係性のネットワーク全体を眺めます。要素の配置を移動させて、見やすいように整理します。
- チームで以下の点を議論し、分析します。
- 特に重要な影響力を持つ要素はどれか?(多くの矢印が出ている要素など)
- 他の要素から多くの影響を受けている要素はどれか?
- 要素が循環して影響し合う「ループ構造」(フィードバックループ)は見られるか?(例: バグが増える → 顧客満足度が下がる → 担当者のモチベーションが下がる → バグが増える)
- 予想していなかった要素間のつながりは見つかったか?
- この構造図から、問題の本質や根本的な原因について何が言えるか?
- どこに働きかけることが、問題解決に最も効果的か?
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まとめと次のステップ (10分)
- ワークショップで得られた構造図から、チームとしての共通認識をまとめます。
- 問題の本質や、最も重要な要素/関係性について合意できたことを確認します。
- この構造理解を次のステップ(例: 具体的な対策の検討、優先順位付け、さらなる情報収集)にどう繋げるかを話し合います。
- 作成した構造図を写真に撮ったり、デジタルデータとして保存したりして、後で参照できるようにします。
ワークショップを成功させるためのポイント
- 全員参加と多様な視点: チームメンバー全員が積極的に要素や関係性を出すことを促します。異なる役割や視点を持つメンバーがいることで、より網羅的で正確な構造が見えてきます。
- 批判しない雰囲気作り: 出されたアイデアや関係性に対して、否定や批判をせず、まずはそのまま受け入れます。議論は構造図が形になってから行います。
- 完璧を目指さない: 一度のワークショップで問題の全てを解明しようとせず、現時点で考えられる最も可能性の高い構造を描くことを目指します。後から修正・加筆することも可能です。
- 「仮説」として捉える: 描かれた構造は、あくまで現時点でのチームの「仮説」です。この仮説に基づいてさらに調査したり、対策を講じたりすることで、その妥当性を検証していきます。
- 定期的な見直し: 特に継続的な課題については、時間経過と共に構造が変わることもあります。定期的に構造図を見直し、現状に合わせて更新することが有効です。
構造図のツールについて
- オフライン: ホワイトボード、模造紙、付箋、ペン。物理的に要素を動かせるため、直感的に進めやすいです。
- オンライン: Miro, FigJam, Excalidraw, Lucidchart, draw.ioなどのオンラインホワイトボードツール。リモートチームでの実施に適しており、データの保存や共有が容易です。要素のテキスト入力や線の描画機能を使います。
まとめ
複雑な問題は、個々の要素を切り離して考えるのではなく、システム全体の構造として捉えることが解決への近道です。本記事でご紹介した構造可視化ワークショップは、チームで問題の全体像と本質を理解するための強力なツールとなります。
ぜひ、このワークショップをチームに取り入れて、目の前の複雑な問題に対して、より深く、より効果的なアプローチを見つけていただければ幸いです。構造を理解することは、問題解決の意思決定の質を大きく向上させる第一歩となるでしょう。