【実践ワーク】チームの現状と課題を可視化し共通理解を深めるワークショップ
チームでの問題解決や意思決定を効果的に行うためには、まずチーム全体で「今、何が起きているのか」「どのような課題があるのか」についての共通理解を持つことが不可欠です。個々人が異なる認識を持ったまま議論を進めても、根本的な原因にたどり着けなかったり、解決策の方向性がずれてしまったりすることが少なくありません。
本記事では、チームメンバーがそれぞれの視点から見たチームの現状や課題、強みなどを率直に共有し、それらを可視化することで共通理解を深めるための実践的なワークショップ手法をご紹介します。このワークショップを通じて、チームの「健康状態」を把握し、次に取るべきアクションを見定める基盤を築くことができます。
ワークショップの目的
このワークショップは、以下の目的を達成することを目指します。
- チームメンバーそれぞれの視点から見た現状や課題、強みを率直に共有する。
- 共有された情報を可視化し、チーム全体の共通認識を醸成する。
- チームが現在直面している主要な課題や改善点を特定する。
- チームの良い点や強みを再認識し、肯定的な側面にも目を向ける。
- 今後のチーム改善に向けた対話の糸口を見つける。
ワークショップの参加者と所要時間
- 参加者: チームメンバー全員(理想的には5〜10名程度)。ファシリテーター役を1名立てることを推奨します。
- 所要時間: 60分〜90分程度
ワークショップで準備するもの
- 付箋(一人あたり10枚以上、数色あると良い)
- ペン
- 模造紙 または 大きなホワイトボード、壁などの共有スペース
- (オンラインの場合)Miro, Mural, FigJamなどのオンラインホワイトボードツール
ワークショップの手順
ステップ1:導入とアイスブレイク(5分)
ワークショップの目的と進め方を参加者全員に説明します。心理的安全性を確保し、率直な意見が出やすい雰囲気を作るために、簡単なアイスブレイクを実施することも有効です。
ファシリテーターは、「このワークショップは、チームの現状をより良く理解し、今後の活動に活かすためのものです。ここでは、どのような意見も歓迎されます。他者の意見を否定することなく、率直な気持ちを付箋に書いて共有しましょう。」といったメッセージを伝えます。
ステップ2:発散(個人の内省と記述)(15分)
参加者それぞれが、以下のテーマについて内省し、思いつくことを付箋に1つずつ具体的に記述します。付箋1枚につき1つのアイデアや事実を記述します。具体的な状況や行動を記述することで、後続の共有や議論がしやすくなります。
テーマ例:
- 「チームの良い点、強みだと感じること」 (緑色の付箋など、肯定的な色で)
- 「チームの課題、改善したいと感じること」 (ピンク色の付箋など、否定的な色で)
- 「最近うまくいったこと、嬉しかったこと」
- 「最近うまくいかなかったこと、困ったこと」
- 「もっとこうなったら良いなと思うこと」
テーマはチームの状況や目的に合わせて調整可能です。例えば、「開発プロセスについて」「コミュニケーションについて」「プロダクトについて」など、焦点を絞ることもできます。
参加者には、他の人の意見を気にせず、自分自身の素直な感覚や経験に基づいて記述することを促します。量は問いませんが、最低でもいくつか書くことを促しましょう。
ステップ3:共有と貼り出し(20分)
各自が記述した付箋を、模造紙やホワイトボードの指定されたエリアに貼り出します。テーマごとにエリアを分けておくと分かりやすいでしょう。
付箋を貼り出しながら、簡単に内容を発表してもらう時間を設けます。一人あたり1枚ずつ順番に読み上げ、なぜそう思ったのか、具体的なエピソードなどを簡潔に共有します。これにより、他のメンバーが記述内容の背景を理解しやすくなります。時間が限られている場合は、気になる付箋についてのみ質問時間を設けても良いでしょう。
この際、ファシリテーターは、発表内容に対するコメントや質問は内容理解の助けになるものに限定し、評価や反論はしないように促します。
ステップ4:グルーピングと傾向の特定(15分)
貼り出された付箋全体を俯瞰し、似たような内容や関連する内容の付箋をグループ化します。これはチーム全員で協力して行うと、共通の認識を深める良い機会になります。ファシリテーターが主導しても良いでしょう。
グループ化が終わったら、それぞれのグループにタイトルをつけます。これにより、どのような傾向や論点があるのかが明確になります。例えば、「レビュープロセスの非効率」「情報共有の不足」「特定の技術スタックへの習熟度不足」「チーム内の称賛文化」といったグループタイトルが生まれるかもしれません。
ステップ5:全体での振り返りと議論(15分)
グルーピングされた結果をチーム全体で共有し、議論します。
- 共通の認識: どの課題や良い点について、多くのメンバーが言及しているかを確認します。これがチームとして特に注目すべき点である可能性が高いです。
- 意外な視点: 一部のメンバーだけが言及しているものの、チームにとって重要な示唆を与える可能性のある意見に注目します。「これは知らなかった」「なぜそう感じるのか、詳しく聞かせてほしい」といった対話が生まれると理想的です。
- ポジティブな点の確認: チームの強みや良い点として挙げられたことについても触れ、ポジティブな側面も認識・称賛します。
この議論を通じて、「チームの現状について、私たちはこう認識している」という共通理解を形成します。すべての課題を一度に解決しようとするのではなく、このワークショップで見えた全体像を基に、今後どの課題に優先的に取り組むかをチームで話し合うためのスタート地点と位置づけます。
ワークショップの効果を最大化するためのポイント
- 心理的安全性の確保: メンバーが安心して率直な意見を言える環境づくりが最も重要です。ファシリテーターは非難のない肯定的な姿勢を保ち、守秘義務についても事前に触れておくと良いでしょう。
- 具体的な記述の奨励: 付箋に書く際は、「コミュニケーションが悪い」だけでなく「〇〇会議で△△の情報共有がされなかった」のように具体的に書くことで、議論が深まります。
- ファシリテーターの役割: 中立的な立場でワークショップの進行を管理し、時間配分を守り、全員が発言しやすい雰囲気を作ることが求められます。特定の意見に偏ったり、自身が議論に参加しすぎたりしないように注意します。
- 次のステップへの接続: このワークショップはあくまで現状認識のためのものです。ワークショップで特定された主要な課題に対して、今後どのようにアプローチしていくのか(例: 根本原因分析ワークショップを実施する、具体的な改善策をブレストする会を持つなど)をチームで話し合い、次のアクションに繋げることが重要です。
まとめ
チームの現状認識と共通理解は、あらゆる改善活動や問題解決の出発点となります。本ワークショップは、比較的短時間でチームの状態を可視化し、メンバー間の認識のずれを減らし、建設的な対話を生み出すための有効な手段です。
ぜひ、あなたのチームでもこのワークショップを試してみてください。チームの健康状態を定期的にチェックし、オープンな対話を通じて、より強くしなやかなチームを目指しましょう。このワークショップで特定された課題に対し、どのように深く掘り下げ、解決策を見つけていくかについては、今後の記事でも具体的なワークショップ手法を紹介していく予定です。