【実践ワーク】チームの議論を目的別に発散・収束させるワークショップ
チームでの議論は、新しいアイデアを生み出したり、複雑な問題を解決したり、重要な意思決定を行ったりするための不可欠なプロセスです。しかし、議論の目的が不明確であったり、適切な進め方ができていない場合、期待する成果が得られないことがあります。特に、「アイデアを広げるべき発散フェーズ」と「結論を出すべき収束フェーズ」の切り替えがうまくいかないことは、多くのチームが直面する課題の一つです。
本記事では、チームの議論を目的別に意図的にデザインし、必要なタイミングで「発散」と「収束」のモードを切り替えるための実践的なワークショップ手法をご紹介します。このワークショップを通じて、チームの議論の質を高め、より効果的な問題解決や意思決定を実現する方法を学びます。
チーム議論における「発散」と「収束」の重要性
チームでの議論は、大まかに以下の2つのフェーズを繰り返しながら進行します。
- 発散フェーズ:
- 目的: 可能な限り多くのアイデアや情報、視点を出し合うこと。多様な可能性を探る。
- 特徴: 自由な発想を奨励し、批判や評価を保留します。質より量を重視します。
- このフェーズが不十分だと、議論の選択肢が狭まり、画期的なアイデアや見落としがちなリスクに気づきにくくなります。
- 収束フェーズ:
- 目的: 発散フェーズで出されたアイデアや情報を整理し、評価し、絞り込み、結論やネクストアクションに繋げること。
- 特徴: 批判的思考や論理的思考を活用し、基準に基づいて取捨選択を行います。
- このフェーズが不十分だと、議論がいつまでも終わりを迎えず、具体的な行動に繋がらないまま時間だけが過ぎてしまいます。
効果的な議論は、これら2つのフェーズを意図的に、そして適切なタイミングで切り替えることで成り立ちます。ブレインストーミングで発散した後に、投票やグルーピングで収束させるのは典型的な例です。しかし、多くのチームでは、発散している最中に誰かが収束しようとしたり、収束しなければならないのにいつまでも発散を続けてしまったりといった状況が見られます。
発散・収束切り替えワークショップの目的と効果
このワークショップの主な目的は、チームメンバーが発散フェーズと収束フェーズそれぞれの目的と進め方を理解し、議論全体の流れの中でこれらを意識的に使い分け、円滑に切り替えられるようになることです。
期待される効果は以下の通りです。
- 議論の停滞や迷走が減り、効率的に進められるようになる。
- 多様なアイデアや意見が十分に引き出されるようになる(発散の質の向上)。
- 議論の成果から、明確な結論やネクストアクションを導き出せるようになる(収束の質の向上)。
- チーム全体で議論のプロセスに対する共通理解が深まる。
- ファシリテーターだけでなく、参加者全員が議論の流れを意識できるようになる。
実践ワークショップの手順
以下に、チームで実施できる「議論の発散・収束切り替えワークショップ」の具体的な手順を示します。このワークショップは、実際の課題やテーマを用いて行うことで、より実践的な学びが得られます。所要時間はテーマの複雑さや参加人数によりますが、目安として60分〜90分程度を見込んでください。
準備
- ワークショップの目的設定: 今回のワークショップで「何を議論し、どのような成果(アイデア、結論、決定事項など)を得たいのか」を明確に設定します。具体的な課題やプロジェクトについて議論するのが最も効果的です。
- 例: 「次のスプリントで取り組むべき技術的負債への対応策アイデア出しと優先順位決定」
- アジェンダ設計: ワークショップの時間配分と、発散フェーズと収束フェーズそれぞれの時間、および切り替えのタイミングを明確に設計します。
- 例: 目的説明(5分)→発散パート(20分)→切り替え(5分)→収束パート(30分)→まとめ(10分)
- ツールの準備:
- 物理的なツール: ホワイトボード、模造紙、付箋、マーカー。
- オンラインツール: Miro, Mural, FigJamなどのオンラインホワイトボードツール。Google Docs/Sheets、Slackなども補助的に利用できます。
- ファシリテーターの準備: ファシリテーターは、各フェーズの目的、ルール、時間配分をしっかり理解し、どのように進行するかをシミュレーションしておきます。
ワークショップ実施
ワークショップの冒頭で、本日の目的とアジェンダ、そして特に「発散」「収束」それぞれのフェーズが存在し、意図的に切り替えることの重要性を説明します。
1. 発散パート
- ルールの確認:
- 「批判しない」「アイデアを自由に」「量を追求」「他人のアイデアに便乗・結合する」といった、発散フェーズの基本的なルール(ブレインストーミングのルールなど)を再確認します。
- 今回は特に「この時間は発散に徹する時間である」ということを強調します。
- アイデア出し:
- 設定したテーマに対して、参加者一人ひとりがアイデアや意見を付箋やオンラインツールに書き出します。最初は数分間、個人で静かに考える時間を設けると、他者に影響されずに多様なアイデアが出やすくなります。
- その後、声に出して共有したり、各自が書き出したものを全体で見える場所に貼り出したりします。
- ファシリテーターは、参加者全員が発言しやすい雰囲気を作り、アイデアが出やすくなるような問いかけを行います。(例: 「もし予算が無制限だったら?」「全く別の業界のやり方を参考にするとしたら?」)
- 可視化と共有:
- 出たアイデアは、重複を気にせず全てホワイトボードやオンラインツールに貼り付け、見える化します。
- 時間内で、可能な限り多くのアイデアを引き出します。
2. 切り替え
- フェーズ変更のアナウンス: ファシリテーターは「ここから収束フェーズに入ります」と明確にアナウンスします。単に「次の議題に移ります」ではなく、モードが変わることを意識させることが重要です。
- 収束フェーズの目的とルールの説明:
- 収束フェーズの目的が「絞り込みや意思決定」であることを再度共有します。
- 発散フェーズとは異なり、アイデアを評価・検討することが必要になる旨を伝えます。ただし、頭ごなしの否定ではなく、建設的な議論を促すようにします。
- 必要に応じて、このフェーズで使用する具体的な手法や評価基準(例: 実現可能性、コスト、インパクトなど)を説明します。
- マインドセットの切り替え促進: 短い休憩を挟んだり、軽いストレッチをしたりすることで、参加者の意識を意図的に切り替える助けとすることも有効です。
3. 収束パート
- アイデアの整理:
- 出されたアイデアを、類似性や関連性でグルーピングします。これはチーム全員で行うと、共通理解を深める良い機会になります。(親和図法などの手法が使えます。)
- 不明確なアイデアについては、提案者に簡単に説明を求めます。
- 重複しているアイデアはまとめます。
- 評価と絞り込み:
- 設定した評価基準に基づき、アイデアを評価します。
- 評価結果や議論に基づいて、絞り込みを行います。投票(ドット投票など)や、より詳細な議論を通じて、優先順位の高いアイデアや実行すべき結論を選定します。
- 意思決定の手法選択: どのように決定するか(例: 多数決、合意、リーダー判断など)を事前に決めておくか、この場で合意します。
- 議論と決定:
- 絞り込まれた候補について、メリット・デメリット、実現可能性などを議論します。
- 設定された意思決定の手法に従い、結論を導き出します。
4. まとめ
- 決定事項・成果の確認: ワークショップで何が決まったのか、どのようなアイデアが優先されたのかを明確に確認し、チーム全体で共有します。
- ネクストアクションの設定: 決定事項に基づき、誰が何をいつまでに行うのか、具体的なネクストアクションを決めます。
- 振り返り(任意): 今回のワークショッププロセス(特に発散・収束の切り替え)について簡単に振り返り、「うまくいった点」「難しかった点」「次回改善したい点」などを話し合うことも、チームの議論スキル向上に繋がります。
効果を出すためのポイント
- 目的と成果を明確にする: 何のために議論するのか、何を得たいのかを明確にしないと、発散も収束も中途半端になります。
- 時間管理を徹底する: 特に発散フェーズでは、「この時間内にできるだけ多くのアイデアを出す」という意識を持つことが重要です。収束フェーズでも、時間内で結論を出す努力が必要です。
- ファシリテーターの役割: ファシリテーターは、各フェーズのルールが守られているか、時間通りに進んでいるか、全員が参加できているかなどを注意深く観察し、介入が必要です。特に切り替え時には、参加者の意識を新しいフェーズにスムーズに移行させるように促します。
- ツールの活用: 物理的なツールでもオンラインツールでも、議論の内容を見える化し、共有しやすくすることが、発散・収束の両フェーズにおいて有効です。
- 練習を重ねる: 一度のワークショップで完璧になるわけではありません。繰り返し実践することで、チーム全体の発散・収束スキルが向上していきます。
まとめ
チームでの議論は、目的達成のために発散と収束という異なるモードを意図的に使い分けることが極めて重要です。本記事でご紹介したワークショップは、チームメンバーがこのプロセスを意識し、円滑に切り替えるための実践的なフレームワークを提供します。
具体的な課題を設定し、定められた手順と時間配分でワークショップを実施することで、チームの議論の質は確実に向上します。発散フェーズでより多くの可能性を探り、収束フェーズで的確な判断を下せるようになることで、チームの全体的な問題解決能力と意思決定能力が高まるでしょう。
ぜひ、あなたのチームでもこのワークショップを実践し、議論の成果を最大化してください。継続的な実践が、チームのコミュニケーションとコラボレーションの質を高めることに繋がります。