【実践ワーク】チームで実行を阻む潜在的な障壁を特定し、克服するワークショップ
はじめに
チームでアイデアを出し、最適な解決策を決定することは、問題解決プロセスの重要なステップです。しかし、優れたアイデアや計画が決定された後でも、その実行段階で予期せぬ困難に直面し、立ち消えになってしまうケースは少なくありません。
実行段階での障壁には、技術的な課題、他チームとの連携、組織文化的な制約、メンバーのスキル不足、時間やリソースの制約など、様々な要因が考えられます。これらの潜在的な障壁を事前に特定し、対策を講じておくことは、計画の成功率を大きく高めるために不可欠です。
本記事では、チームで解決策の実行を阻む潜在的な障壁を特定し、それを克服するための具体的なワークショップ手順をご紹介します。このワークショップを通して、チーム全体で実行時のリスクを共有し、よりスムーズな実行に向けた準備を進めることができます。
ワークショップの目的と効果
このワークショップの主な目的は以下の通りです。
- チームで決定した解決策やアクションプランの実行段階で発生しうる潜在的な障壁を網羅的に洗い出す
- 洗い出した障壁の影響度や発生確率を評価し、優先順位をつける
- 主要な障壁に対する具体的な対策や回避策を検討する
- チーム全体で実行時のリスクと対策に関する共通認識を持つ
このワークショップを実施することで、チームは以下のような効果を期待できます。
- 計画の実行成功率が向上する
- 実行段階での手戻りや遅延を減らすことができる
- 予期せぬ問題発生時の対応力が向上する
- チームの準備度が高まり、自信を持って実行に臨めるようになる
- 実行に関する潜在的な不安や懸念を共有し、心理的安全性を高める
ワークショップの参加者と準備
参加者: 解決策やアクションプランの実行に関わる全てのチームメンバー、および必要に応じて関連チームの代表者やステークホルダーを含めると効果的です。少人数(3〜8名程度)で行うのが理想的です。
時間: 内容の網羅性と深さによりますが、一般的には1時間半から3時間程度を想定します。
場所・ツール: 対面の場合:ホワイトボードまたは模造紙、ペン、付箋 オンラインの場合:Miro, Muralなどのオンラインホワイトボードツール、ビデオ会議ツール
準備: * 今回対象とする解決策やアクションプランの詳細資料 * ワークショップの進行役(ファシリテーター)の選定 * 使用するツールの準備と参加者への共有(オンラインの場合)
ワークショップの進め方(手順)
ステップ1:目的の確認と共通認識の形成(15分)
まず、今回検討する解決策やアクションプランの目的、期待される成果、重要なマイルストーンなどをチーム全体で再確認します。これにより、ワークショップの焦点がブレないようにします。「この計画が成功した状態とはどのようなものか?」を具体的にイメージし、共有します。
次に、「この計画を実行に移す際に、どのようなことが起きると、成功から遠ざかってしまう可能性があるか?」という問いをチームに投げかけ、これから検討する「障壁」とは何か、その特定がなぜ重要なのかを明確にします。
ステップ2:潜在的な障壁のアイデア発想(30分)
ここが障壁を洗い出すブレインストーミングのフェーズです。以下の質問を参考に、個人ワークで付箋にアイデアを書き出し、その後共有・グルーピングを行います。
アイデア発想の問いかけ例:
- この計画を実行する上で、最も難しそうだ、または懸念している点は何か?
- 過去に類似の計画を実行した際に、苦労した点や失敗した点は何か?
- この計画の進行を遅らせる可能性のある外部要因(他チーム、顧客、技術変化など)は何か?
- この計画に必要な技術、知識、スキルはチームに十分にあるか? 不足している場合、それは障壁にならないか?
- この計画に必要なリソース(時間、予算、ツールなど)は十分か?
- この計画の実行において、メンバー間で意見の対立や認識のズレが生じる可能性は?
- もしこの計画がうまくいかなかったとしたら、それはどのような原因が考えられるか?(未来からの逆算思考)
進行のポイント:
- 批判厳禁: どんな些細な懸念や非現実的に思えるアイデアでも歓迎し、批判しない雰囲気を作ります。
- 量に焦点を: 最初は質より量を重視し、とにかく多くの障壁を洗い出すことを目指します。
- カテゴリ分け: 出揃った付箋を、関連性の高いもの同士でグルーピングします。技術、組織、コミュニケーション、リソース、外部要因などのカテゴリを事前に用意しておくと整理しやすい場合があります。グルーピング後、各グループに代表的なタイトルをつけます。
ステップ3:障壁の重要度・影響度評価(30分)
洗い出された障壁(またはグルーピングされた障壁のカテゴリ)について、その重要度を評価します。評価軸として、「発生確率」と「発生した場合の影響度」を用いるのが効果的です。2x2のマトリクス(例:縦軸「影響度」、横軸「発生確率」)を作成し、各障壁をプロットすることで視覚的に理解しやすくします。
評価の例:
- 発生確率: 高い、中程度、低い
- 影響度: 壊滅的、重大、中程度、軽微
チームで議論しながら、各障壁がマトリクスのどこに位置するかを決定します。特に、「発生確率が高く、影響度も高い」、または「発生確率は低いかもしれないが、影響度が壊滅的」な障壁に注目します。これらが、次のステップで対策を検討すべき主要な障壁となります。
進行のポイント:
- 全員参加の議論: 一部の意見に偏らず、全員が評価に参加できるよう促します。
- 定義の明確化: 「高い確率」とはどの程度か、「重大な影響」とは具体的にどういう状態かをチームで定義すると、評価のばらつきを抑えられます。
- 優先順位付け: マトリクス上で右上(高確率・高影響度)に位置するものから優先的に検討対象とします。
ステップ4:主要な障壁への対策検討(45分)
ステップ3で特定した主要な障壁に対し、それぞれどのような対策を講じることができるかをブレインストーミングします。「その障壁が起きないようにするためには?」「もし起きてしまったらどう対応するか?」という視点でアイデアを出します。
対策検討の問いかけ例:
- この障壁の発生確率を下げるために、事前に何ができるか?
- もしこの障壁が発生したら、どのような手順で対応するのが最も効果的か?
- この障壁の影響を最小限に抑えるためには、どのような準備やアクションが必要か?
- 誰に協力を仰ぐべきか? どのような情報が必要か?
- 代替案や緊急時のプランは考えられるか?
出された対策アイデアも付箋に書き出し、障壁ごとにグルーピングします。実現可能性や効果を議論し、最も適切と思われる対策をいくつか選びます。
進行のポイント:
- 具体的であること: 「注意する」「頑張る」ではなく、「〇〇のツールを導入する」「△△の研修を受ける」「関係者□□さんと週次で情報共有する」など、具体的で行動に移せる対策を検討します。
- 複数案の検討: 一つの障壁に対して複数の対策案を出し、比較検討します。
- 実行可能な範囲で: 現実的にチームの能力やリソースで実行可能な対策を選びます。
ステップ5:アクションプランへの組み込みと担当者・期日設定(20分)
検討した対策を、実際の実行計画(アクションプラン)に組み込みます。対策は、タスクとして明確に定義し、担当者と期日を設定します。
例えば、「他チームとの連携不足」という障壁に対する対策として「週次の定例会議を設定する」を選んだ場合、「〇〇チームの□□さんと、週次定例会議(毎週月曜午前)をセットアップする」といった具体的なタスクとして計画に加えます。
また、「発生確率が高くはないが、影響度が非常に大きい」障壁に対する対策は、「もし発生した場合の連絡先リストを作成する」「緊急時対応フローを簡易的に定義しておく」といった準備タスクとする場合もあります。
進行のポイント:
- 見える化: 対策タスクを、実行計画全体の一部として明確にリストアップします。
- 責任と期限: 各タスクに責任者を明確に割り当て、具体的な期日を設定します。
- 共有: 決定した対策タスクをチーム全体で共有し、認識を一致させます。
ワークショップを成功させるためのポイント
- 心理的安全性: メンバーが自由に懸念を表明できる安全な場を作ることが最も重要です。どんな意見も否定せず、傾聴する姿勢を徹底します。
- ファシリテーション: 議論が脱線しないように、時間を管理し、全てのメンバーが発言機会を持てるように促します。
- 具体的なアウトプット: ワークショップの最後に、「特定された主要な障壁リスト」「各障壁に対する対策リスト」「対策を実行するためのタスクリスト(担当者・期日付き)」といった具体的な成果物を作成し、チームで共有します。
- 継続的な見直し: 実行段階でも状況は変化します。特定した障壁や対策は、定期的に見直し、必要に応じて更新することが望ましいです。
まとめ
チームでの問題解決や計画実行において、潜在的な障壁への対策は成功を左右する重要な要素です。本記事でご紹介したワークショップは、チーム全体で実行時のリスクを洗い出し、共通認識を持ち、事前に対策を講じるための実践的なアプローチを提供します。
このワークショップをチームの習慣に取り入れることで、計画の実行精度を高め、予期せぬ問題に対する対応力を強化することができます。ぜひ、次回の重要な計画を実行に移す前に、チームで「実行を阻む障壁」について真剣に話し合う時間を持ってみてください。それは、計画の成功だけでなく、チームの成長にも繋がる貴重な投資となるでしょう。