【実践ワーク】チームメンバー間の期待値を可視化し、相互理解を深めるワークショップ
チームメンバー間の「期待値のズレ」がもたらす問題とは
チームで協働する上で、個々のメンバーが互いにどのような役割や貢献を「期待しているか」、あるいはどのような役割や貢献を「期待されていると感じているか」は、円滑なコミュニケーションと効率的な連携の基盤となります。しかし、この「期待値」はしばしば暗黙のうちに存在し、明示的に共有されることが少ないため、メンバー間でズレが生じやすいのが現状です。
この期待値のズレは、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
- コミュニケーションの衝突: 「言わなくてもわかるはずだ」という思い込みから、必要な情報共有や確認が行われず、認識の食い違いが発生します。
- 役割分担の不明確さ: 誰が何を担当するのか、どのようなレベルの貢献が求められるのかが曖昧になり、タスクの重複や漏れ、責任の押し付け合いなどが生じます。
- パフォーマンスの低下: 期待に応えられていない、あるいは過剰な期待を感じているメンバーは、モチベーションや生産性が低下する可能性があります。
- 心理的安全性の低下: 期待外れの言動があった際に、率直なフィードバックや建設的な対話が難しくなり、チーム内の信頼関係が損なわれることがあります。
これらの問題を未然に防ぎ、チームの連携を強化するためには、メンバー間の期待値を可視化し、共通理解を深めるための意図的な働きかけが必要です。本記事では、そのための実践的なワークショップをご紹介します。
ワークショップの目的と概要
このワークショップの主な目的は、チームメンバー各自が抱いている「チームや他のメンバーへの期待」と「チームや他のメンバーから自分への期待だと感じていること」をオープンに共有し、相互理解を深めることです。これにより、期待値のズレを解消し、より健全で生産的なチーム関係を築くことを目指します。
このワークショップは、以下のような状況にあるチームに特に推奨されます。
- 新しく発足したチーム
- メンバー構成が変更されたチーム
- チーム内のコミュニケーションに課題を感じているチーム
- 役割分担が不明確になっているチーム
- 過去に期待値のズレによるトラブルがあったチーム
ワークショップは、数時間で実施可能であり、対面でもオンラインでも実施できます。
【実践ワーク】期待値可視化&相互理解ワークショップの手順
準備
- 参加者: チームメンバー全員
- 時間: 1時間半〜2時間程度
- 場所:
- 対面: 会議室、ホワイトボードまたは模造紙、付箋(複数色)、ペン
- オンライン: オンラインホワイトボードツール(Miro, FigJam, Muralなど)、ビデオ会議ツール
- ファシリテーター: チームリーダーまたは他のメンバーが担当
手順
ステップ1: ワークショップの目的とグランドルールの説明 (5分)
ファシリテーターがワークショップの目的(期待値の可視化と相互理解)を改めて説明します。そして、全員が安心して意見を共有できるよう、以下のグランドルールを設定・確認します。
- この場で共有された内容は、相互理解を深めるためのものであり、誰かを非難するためのものではない。
- 全ての意見を尊重し、最後まで聞く。
- 「なぜそう思うのか」といった意図を理解する姿勢を持つ。
- 特定の個人攻撃にならないように注意する。
- (その他、チームに必要なルールがあれば追加)
ステップ2: 個人の期待値を書き出す (15-20分)
各自、以下の2つの観点について、具体的な内容を付箋に1つずつ書き出します。プライバシーを考慮し、匿名で書くか実名で書くかはチームの状況に応じて事前に決めます。最初は考えられるだけ多くのアイデアを出すことを意識します。
- 観点A: 「チームや他のメンバーに期待していること」
- 例: 「会議で率直に意見を言ってほしい」「困った時は気軽に相談してほしい」「期日までにタスクを完了してほしい」「新しい技術情報があれば共有してほしい」「ポジティブな雰囲気を作ってほしい」など
- 観点B: 「チームや他のメンバーから自分に期待されていると感じていること」
- 例: 「〇〇の専門家として技術的な問題を解決すること」「タスクの進捗を毎日報告すること」「チームの調整役になること」「新しいアイデアを出すこと」など
ステップ3: 期待値を共有し、可視化する (20-30分)
書き出した付箋を、観点Aと観点Bで分け、ホワイトボードやオンラインボードに貼り出します。貼り出す際は、可能であれば同じような内容を近くにまとめると、後のステップで整理しやすくなります。
全員が貼り終えたら、各自が貼り出した内容を簡単に説明します。「私は〇〇さんに、〜〜を期待しています」「私はチームから、〜〜を期待されていると感じています」のように具体的に共有します。この際、詳細な議論はせず、まずは全員の期待を「出す」ことに集中します。
ステップ4: 期待値の整理と対話の促進 (30-40分)
貼り出された付箋を俯瞰し、以下のような観点から整理したり、注目すべき点について対話を促します。
- 共通項の発見: 多くのメンバーが同じような期待を持っている部分はどこか? これはチームの共通認識として確認・強化できます。
- ズレの発見: あるメンバーが期待していることと、別のメンバーが期待されていると感じていることに大きな違いがある部分はどこか? ここがまさに議論すべきポイントです。
- 不明瞭な点の発見: 具体性に欠ける表現や、抽象的すぎる期待はないか? 「もっと頑張ってほしい」のような抽象的な期待は、「具体的にどのような行動や結果を期待しているのか」を掘り下げて対話します。
- 意外な発見: 予想していなかった期待や、自分が他のメンバーからどのように見られているか(期待されていると感じているか)について、意外な発見はないか?
これらの発見に基づき、特にズレや不明瞭な点に焦点を当てて対話を行います。ファシリテーターは、感情的にならず、互いの意図や背景を理解することに注力できるよう、対話をリードします。「なぜそのように期待していますか?」「なぜそのように感じていますか?」といった問いかけが有効です。
ステップ5: 合意形成とネクストアクションの設定 (10-15分)
対話を通じて明確になったこと、共通理解が得られたこと、あるいは解消すべき期待値のズレについて、チームとしての合意事項を確認します。可能であれば、特に重要だと考えられる共通の期待や、明確になった役割・責任などを簡単に文書化することを検討します。
また、今回のワークショップだけでは解決しきれなかった問題や、継続的に意識・実施していくべきこと(例: 定期的な1on1、非同期コミュニケーションのルールの見直しなど)について、ネクストアクションを決定します。
ステップ6: ワークショップの振り返り (5分)
ワークショップ全体を簡単に振り返り、参加者の感想や気づきを共有します。ワークショップ自体が効果的だったか、改善点はないかなどを話し合い、今後のチーム運営や同様のワークショップに活かします。
ワークショップ成功のためのポイント
- 心理的安全性の確保: 参加者が安心して本音を話せる雰囲気を何よりも重視してください。ファシリテーターは批判的な意見や個人的な攻撃を厳に戒め、全ての意見を受け止める姿勢を示します。
- 具体的な表現を促す: 抽象的な期待ではなく、「〇〇という状況で、〜〜という行動をとってほしい」「△△の期日までに、□□の状態にしてほしい」のように、具体的で測定可能な表現で期待値を書き出すように促します。
- 「なぜ」を掘り下げる: 期待やそのように感じる背景にある「なぜ」を深く掘り下げることで、表面的な言葉の裏にある真意や価値観を理解しやすくなります。
- 完璧を目指さない: 一度のワークショップですべての期待値のズレが解消されるわけではありません。このワークショップは、チームメンバーがお互いの期待について意識的に考えるきっかけを作り、対話の文化を育むための第一歩と捉えることが重要です。定期的に実施することも有効です。
- ファシリテーターのスキル: 中立的な立場で場を管理し、全員が発言しやすい雰囲気を作り、対話が目的から逸脱しないようにリードするファシリテーターの役割は非常に重要です。
まとめ
チームメンバー間の期待値のズレは、多くのチームで潜在的な問題の根源となっています。この「期待値可視化&相互理解ワークショップ」は、普段言語化されないお互いへの期待をオープンに共有し、建設的な対話を通じて共通理解を深めるための強力なツールです。
このワークショップを実践することで、チーム内のコミュニケーションが改善され、役割分担が明確になり、相互の信頼関係が強化されることが期待できます。結果として、チームのパフォーマンス向上やエンゲージメント向上に繋がるでしょう。
ぜひ、皆様のチームでもこのワークショップを試していただき、より連携の取れた、健全なチーム運営を実現してください。