【実践ワーク】チームで非機能要件を明確化し、品質基準を合意するワークショップ
チームでソフトウェア開発を進める際、機能要件にばかり目が向き、非機能要件の議論が曖昧になりがちではないでしょうか。非機能要件が不明確なままだと、システムリリース後のパフォーマンス問題、セキュリティ脆弱性、運用コストの増大など、重大な課題に直面するリスクが高まります。また、品質に関するチームメンバー間の認識齟齬は、手戻りや信頼性の低下にも繋がります。
このワークショップは、チームで非機能要件を体系的に洗い出し、具体的かつ定量的な品質基準として合意形成を行うことを目的としています。実践的な手順を通じて、品質の高いプロダクト開発を支援し、チーム全体の共通理解を深めることを目指します。
非機能要件とは何か
非機能要件とは、システムの「どのように」動作するか、または「どのような品質」を持つべきかに関する要件です。これに対し、機能要件はシステムの「何を」するか、つまり具体的な機能の振る舞いを記述します。
非機能要件は、システムのユーザビリティ、信頼性、パフォーマンス、セキュリティ、保守性、運用性、拡張性といった多岐にわたる側面を含みます。これらは直接的なビジネス機能ではないものの、ユーザー体験、システムの安定稼働、そして将来的な開発コストに大きな影響を与えるため、開発の初期段階で明確にしておくことが極めて重要です。
ワークショップの事前準備
ワークショップを円滑に進めるためには、事前の準備が重要です。
- 参加者: 開発者、プロダクトオーナー、プロジェクトマネージャー、運用担当者、セキュリティ担当者など、プロダクトに関わる多様なステークホルダーが参加することが望ましいです。多様な視点を取り入れることで、網羅的かつバランスの取れた非機能要件の議論が可能になります。
- 時間: 3時間から半日程度の時間を確保することをお勧めします。議論の深さやチームの規模に応じて調整してください。
- ツール:
- ホワイトボードまたはMiro、Jamboardなどのオンラインホワイトボードツール
- 付箋(物理またはデジタル)
- ペン
- 非機能要件のカテゴリーリスト(後述)
ワークショップの進め方
ステップ1: 非機能要件のカテゴリー理解と導入
まず、参加者全員で非機能要件の主要なカテゴリーについて理解を深めます。これにより、議論の漏れを防ぎ、共通の枠組みで思考できるようになります。
主要な非機能要件のカテゴリー例:
| カテゴリー | 説明 | 具体的記述例 非機能要件の合意形成は、品質担保と開発効率化において不可欠な活動です。この実践的なワークショップを通じて、チーム内で非機能要件の共通認識を築き、プロダクトの成功に向けた強固な基盤を構築しましょう。
付録: 非機能要件記述テンプレート
ワークショップで合意された非機能要件を明確に文書化するためのテンプレートです。
| 項目 | 説明 | 記入例 | | :----------- | :----------------------------------------------------------------------- | :------------------------------------------------------------------------- | | 要件ID | 一意の識別子(例: NFR-PER-001) | NFR-SEC-002 | | カテゴリー | 性能、可用性、セキュリティなど、非機能要件の種類 | セキュリティ | | 要件名 | 要件の簡潔なタイトル | 不正アクセス防止 | | 詳細記述 | 要件の具体的な内容と背景、目的 | ユーザー認証において、ブルートフォースアタックに対する保護を実装する。 | | 測定基準 | 要件が満たされているかを確認するための定量的指標(SMART原則を意識) | 5秒間に10回以上のログイン試行があった場合、そのIPアドレスからのログインを5分間ブロックする。 | | 優先度 | 高、中、低など。ビジネス価値やリスクに基づいて決定。 | 高 | | 担当者 | この要件の実現と検証に責任を持つ担当チーム/個人 | 開発チーム | | 関連リスク | この要件が満たされない場合に想定されるリスク | ユーザーアカウントの乗っ取り、データ漏洩 | | 備考 | その他、補足情報や制約事項など | ログイン試行回数の閾値は変更可能にする。 |
このテンプレートを活用することで、非機能要件を漏れなく、かつ明確に定義することが可能になります。文書化された非機能要件は、開発プロセス全体を通じてチームの指針となり、品質の高いプロダクトを実現するための重要な資産となるでしょう。