【実践ワーク】チームの心理的安全性を育み、率直な意見交換を可能にするワークショップ
チームでの問題解決やブレインストーミングを効果的に進める上で、心理的安全性は不可欠な要素です。心理的安全性が高いチームでは、メンバーは失敗を恐れずに新しいアイデアを発言したり、懸念事項を率直に共有したりすることができます。これにより、チームは潜在的なリスクを早期に発見したり、より多様な視点から最適な解決策を見つけ出したりすることが可能になります。
しかし、多くのチームでは、知らず知らずのうちに心理的安全性が低い状態になっていることがあります。例えば、発言に対する批判的な態度、質問しにくい雰囲気、上司や一部の強い意見に流されやすい傾向などが見られる場合があります。このような環境では、メンバーは自己防衛的になり、本当に重要な情報やアイデアがチーム内で共有されにくくなってしまいます。
本記事では、チームの心理的安全性を具体的に育むためのワークショップの手順とその実施ポイントを解説します。このワークショップを通して、チームメンバーが心理的安全性の重要性を理解し、現状を認識し、改善に向けた具体的な一歩を踏み出すことを目指します。
心理的安全性とは何か
心理的安全性(Psychological Safety)とは、組織行動学者のエイミー・エドモンドソン氏によって提唱された概念です。「チームにおいて、他のチームメンバーが自分の発言を拒絶したり罰したりしないという確信を持てる状態」を指します。簡単に言えば、「このチームなら、ありのままの自分(例えば、不明な点を質問したり、間違いを認めたり、新しいアイデアを提案したりしても)でいても大丈夫だ」と感じられる状態です。
心理的安全性が高いチームでは、以下のような行動が見られやすくなります。
- 活発な意見交換や議論が行われる
- 多様な視点やアイデアが共有される
- 懸念事項やリスクを早期に報告できる
- 失敗や不明な点について正直に話せる
- 互いに協力し、助け合う姿勢が見られる
これらの行動は、チームの学習能力を高め、変化への適応を促し、結果としてパフォーマンスの向上に繋がります。
ワークショップの目的
このワークショップの主な目的は以下の通りです。
- 心理的安全性の概念とその重要性についてチームで共通理解を持つこと。
- チーム現状における心理的安全性の状態を正直に話し合い、認識すること。
- 心理的安全性をさらに高めるための具体的な改善アクションをチームで合意し、実行可能な計画を立てること。
ワークショップ参加の準備
- 参加者: チームメンバー全員。可能な限り、チームリーダーやマネージャーも参加することが望ましいです。
- 所要時間: 90分~120分程度を見込みます。内容の深さやチーム規模により調整してください。
- 場所・ツール:
- 対面の場合: ホワイトボード、マーカー、大量の付箋、ペン、広い会議室。
- オンラインの場合: Miro、Mural、FigJamなどのオンラインホワイトボードツール、またはZoom、Teamsなどのビデオ会議ツール。付箋機能やグルーピング機能があるものが便利です。
- ファシリテーター: ワークショップの進行役を事前に決めておきます。チームリーダーが行う場合と、チーム外の第三者が行う場合があります。中立的な立場で進行できる人が望ましいです。
ワークショップの手順
ステップ1: チェックイン(10分)
ワークショップ開始にあたり、参加者がリラックスし、安心して話せる雰囲気を作ります。簡単な自己紹介や、最近あった良かったことなどを一人ずつ話す時間を設けると効果的です。例えば、「最近気づいたチームの良い点」などを共有してもらうのも良いでしょう。これは心理的安全性を育む最初の一歩となります。
ステップ2: 心理的安全性に関するミニレクチャー(15分)
心理的安全性の概念について簡単に説明します。エイミー・エドモンドソン氏の定義、なぜチームにとってそれが重要なのか、心理的安全性が高い・低いチームで起こる行動の違いなどを分かりやすく伝えます。
- 定義のスライドを見せる
- 具体的なチームでのエピソード(例: 懸念を言えずにプロジェクトが失敗した、率直なフィードバックで早期に改善できたなど)を話す
- 質疑応答の時間を設ける
ここでは、「心理的安全性とは、仲良しこよしであることや、何も批判しないことではない」という点を明確に伝えることが重要です。目的は建設的な意見交換や成長であり、そのために必要な信頼関係の基盤であると説明します。
ステップ3: チームの現状認識ワーク(30分)
チーム現状の心理的安全性を率直に話し合い、可視化するワークを行います。いくつかの問いかけに対し、参加者が匿名または記名で意見を共有する形式が良いでしょう。匿名での意見共有は、特に心理的安全性がまだ低い可能性のあるチームで、正直な意見を引き出すのに有効です。
ワーク形式例(付箋またはオンラインツールを使用):
以下の問いに対し、一人あたり複数の意見を付箋(またはデジタル付箋)に書き出してもらいます。
- 「このチームで、あなたが安心して意見を言えるのは、どのような時ですか?」
- 「このチームで、あなたが意見を言うことに躊躇するのは、どのような時ですか?」
- 「もしこのチームで失敗や間違いをしても、素直に認められる雰囲気がありますか?」
- 「チームメンバーがお互いに助けを求めやすい雰囲気がありますか?」
- 「新しいアイデアや挑戦的な提案をしやすい雰囲気がありますか?」
書き出し終わったら、全員で付箋を共有スペースに貼り出します。
ステップ4: 課題の特定と構造化(20分)
共有された付箋を全員で見ながら、似た意見をグルーピングします。ファシリテーターは、特定の意見に批判的なコメントをすることなく、全員の意見が尊重されるように進行します。
グルーピングを通して、チームの心理安全性における「良い点」と「改善が必要な点(課題)」を特定します。特に「意見を言うことに躊躇する時」や「失敗を認めにくい雰囲気」といった意見に焦点を当て、なぜそう感じるのか、具体的な状況や背景について、深掘りして話し合います。
ステep5: 改善アクションの検討(30分)
特定された「改善が必要な点(課題)」に対し、チームで解決策をブレインストーミングします。どのような行動やチームのルール、習慣を変えれば、これらの課題が解決され、心理的安全性が高まるかを具体的に考えます。
例: * 課題: 会議で一部の人しか発言しない * アクション案: 発言していない人に司会が順番に意見を求める、短い時間でも全員が話すチェックイン・チェックアウトを導入する、発言内容ではなく発言そのものを称賛する * 課題: 失敗を恐れて新しいことに挑戦しにくい * アクション案: 「実験」と称して小さな試みを奨励する、失敗から学んだことを共有する時間を設ける、「ナイス失敗」のようなポジティブな表現を使う
重要なのは、抽象的な目標ではなく、チームメンバーが明日からでも実践できる具体的な行動レベルのアイデアを出すことです。
ステップ6: ネクストアクションの決定(10分)
検討した改善アクションの中から、チームとしてまず取り組むべきものを絞り込みます。そして、それぞれのネクストアクションについて、担当者と完了期限を明確に決めます。多すぎるアクションは継続が難しいため、まずは2〜3個に絞るのが現実的です。これらのアクションを定期的に振り返り、進捗を確認する機会(例: 定例会議の冒頭など)を設けることも合意しておきます。
ステップ7: チェックアウト(5分)
ワークショップ全体の振り返りを行います。一人ずつ、ワークショップに参加して感じたこと、気づいたこと、今後のチームで意識したいことなどを簡単に共有します。ポジティブな雰囲気で締めくくり、今後の改善への意欲を高めます。
ワークショップを効果的に進めるためのポイント
- ファシリテーターの役割:
- 中立的な立場で進行し、特定の意見に偏らないように注意します。
- 全員が平等に発言する機会が得られるよう促します。
- 批判的な意見や否定的な態度は認めないルールを徹底します(「まず受け止め、その後に意見を述べる」など)。
- 時間管理をしっかり行います。
- ルール設定:
- ワークショップ開始時に、「批判しない」「相手の意見を尊重する」「否定から入らない」といった基本的なコミュニケーションルールを確認し、合意します。
- 「心理的安全性に関する話は、あくまでチームのより良い状態を目指すためのものであり、個人攻撃ではない」という共通認識を持ちます。
- 匿名性の活用: 特に現状の心理的安全性に懸念がある場合は、現状認識ワークで匿名での意見提出を可能にすることで、本音が出やすくなります。
- 継続的な取り組み: 心理的安全性は一度ワークショップを行えば完成するものではありません。決定したアクションを継続的に実行・確認し、定期的にチームの状態を振り返る機会を持つことが重要です。
まとめ
チームの心理的安全性を高めることは、単に仲の良いチームを作るためではなく、チームの真のパフォーマンスと問題解決能力を向上させるために不可欠です。本記事で紹介したワークショップは、チームが自分たちの現状を把握し、心理的安全性を育むための具体的な一歩を踏み出すための実践的なアプローチとなります。
このワークショップをきっかけに、あなたのチームが率直な意見交換を当たり前にできる、より生産的で創造的なチームへと発展することを願っています。継続的な対話と実践を通じて、チームの心理的安全性を着実に育んでいきましょう。