【実践ワーク】チームの取り組みの目的と期待成果を明確にするワークショップ
チームで新しい取り組みを始める際、あるいは既存の活動を見直す際に、「何のためにこれを行うのか?」「成功とは具体的にどのような状態か?」といった問いに対する共通認識が不足していると、後々チームの迷いや非効率性が生じやすくなります。これは、メンバー間での期待値のズレ、優先順位の認識違い、モチベーションの低下といった問題に繋がりかねません。
このような状況を避け、チームが同じ方向を向き、最大の効果を発揮するためには、取り組みの「目的」と「期待される成果」を活動の早期段階で明確にし、チーム全員で合意することが極めて重要です。本記事では、チームで実践できる「目的・期待成果明確化ワークショップ」の手順と、その効果を最大限に引き出すためのポイントを解説します。
目的・期待成果明確化ワークショップとは
このワークショップは、特定のプロジェクト、目標、あるいは継続的な取り組みに対して、「なぜそれを行うのか(目的)」と「それによってどのような状態を目指すのか、何をもって成功と見なすのか(期待成果)」をチームメンバー全員で議論し、言語化、共有、合意形成するための集中的な活動です。
ワークショップの目的
- 方向性の統一: チームメンバーが共通の目的意識を持ち、活動の根幹となる「Why」を深く理解します。
- 共通理解の醸成: 曖昧さを排除し、目指す「成果」の具体的なイメージや評価基準について共通の認識を築きます。
- 意思決定の指針: 今後の活動における様々な意思決定の際に、目的と期待成果を基準として判断できるようになります。
- モチベーション向上: 取り組みの意義と目指す状態が明確になることで、メンバーの主体性や貢献意欲が高まります。
- 効果測定の基準: 何をもって成功と判断するかの基準が明確になるため、活動の効果を測定し、振り返りを行う上での基盤となります。
想定される利用シーン
- 新規プロジェクトのキックオフ時
- 新しい目標設定サイクルの開始時
- チームの活動方針を見直す際
- 課題解決や改善活動の初期段階
ワークショップの準備
参加者
- 取り組みに関わる主要なチームメンバー全員
- 必要に応じて、関連部門のキーパーソンや意思決定者
時間
- テーマの範囲によりますが、通常1〜3時間程度を確保します。中断されず、全員が集中できる時間帯を選びます。
場所/ツール
- 対面の場合:広い壁面(模造紙やホワイトボードを使用)、付箋、マーカー
- オンラインの場合:Zoom, Microsoft Teamsなどのビデオ会議ツール、Miro, Mural, FigJamなどのオンラインホワイトボードツール
事前準備
- 背景情報の共有: なぜこの取り組みが必要なのか、現状はどうなっているのかといった背景情報を事前に参加者に共有しておきます。
- 問いの準備: ワークショップで議論するための問いを準備しておきます。(例:「この取り組みで達成したい究極的な目的は何ですか?」「この取り組みが成功したとき、組織や顧客にどのような変化が起きていますか?」「何を達成できれば『成功した』と言えますか?」など)
- ファシリテーターの選定: 議論を円滑に進め、全員の意見を引き出し、時間を管理するファシリテーターを事前に決めておきます。チームリーダー自身が務めることも多いですが、中立的な立場の人が適任の場合もあります。
ワークショップの手順(例)
以下は一般的な手順例です。チームの状況やテーマに合わせて適宜変更してください。
ステップ1:ワークショップの目的と流れの共有(5-10分)
- 本日のワークショップがなぜ重要なのか、何を目指すのかを明確に伝えます。
- ワークショップの全体像と各ステップにかける時間を共有し、期待されるアウトプットを示します。
- 心理的安全性を確保するためのグランドルール(例: 全員の意見を尊重する、否定しない、積極的に参加するなど)を確認します。
ステップ2:取り組みの背景と現状の共有(10-20分)
- 事前に共有した背景情報や現状について、改めてチームで簡単に確認します。必要に応じて、簡単なQ&Aを行います。
- このステップは、なぜこの目的・期待成果を明確にする必要があるのか、共通の認識を持つために重要です。
ステップ3:目的の探求と思考の拡散(20-40分)
- 個人ワーク: 参加者一人ひとりが、この取り組みで達成したい「目的」について考え、付箋やオンラインツールに書き出します。(例:「顧客満足度を向上させる」「業務プロセスを効率化する」「新しい市場を開拓する」など)
- 共有とグルーピング: 書き出された目的を発表し、ホワイトボードやオンラインツールに貼り出します。類似する目的をグループ化したり、関連する目的同士を線で結んだりして、チーム全体の目的候補を可視化します。
- 議論と深掘り: グループ化された目的について議論し、「なぜそれが目的なのか?」を深掘りします。より本質的な目的に焦点を絞るための問いかけを行います。(例:「顧客満足度を向上させるのは、最終的に何に繋がるのか?」「業務効率化によって、何を可能にしたいのか?」)
ステップ4:期待成果の定義と思考の拡散(20-40分)
- 個人ワーク: ステップ3で明確になった目的を踏まえ、「その目的が達成されたとき、具体的にどのような状態になっているか?」「何をもって成功と判断できるか?」といった「期待成果」について考え、書き出します。(例:「〇〇機能の利用率が△%増加」「特定業務にかかる時間が半分になる」「新規顧客獲得数がXX件を達成」など)
- 共有とグルーピング: 書き出された期待成果を発表し、可視化します。定量的な成果と定性的な成果の両方が含まれるように促します。
- 議論と具体化: 期待成果について議論し、曖昧な表現を具体的な指標や観点に落とし込みます。可能であれば、SMART原則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)のようなフレームワークを活用して、より測定可能で明確な成果記述に近づけます。
ステップ5:目的と期待成果の統合と合意形成(20-30分)
- ステップ3で明確になった目的と、ステップ4で定義した期待成果を関連付け、整理します。
- 目的と期待成果がチームの活動内容やリソースと整合しているかを確認します。
- チームメンバー全員で、最終的な目的と期待成果案に対する認識のズレがないかを確認し、質疑応答を行います。
- 全員が納得できる形で合意を形成します。合意できない点があれば、その理由を探り、代替案を検討します。
ステップ6:ドキュメント化と次のステップの確認(5-10分)
- 合意された目的と期待成果を、全員が参照できる形式でドキュメント化します。(例: Confluenceなどの情報共有ツール、プロジェクト計画書など)
- このワークショップで定義された目的と期待成果を、今後の活動にどのように活用していくか(例: 優先順位付けの基準、進捗確認時の指標、振り返りの観点など)、次のアクションを確認します。
- ワークショップの成果を参加者以外にも共有する必要があるか検討します。
効果を出すためのポイント
- ファシリテーション: 全員の意見を引き出し、活発な議論を促しつつ、脱線せずに時間内に結論を出す skilfulなファシリテーションが重要です。問いかけ方や議論の方向性を適切にコントロールします。
- 全員参加: 一部のメンバーだけでなく、関係者全員が参加し、主体的に意見を出すことが、共通認識の質の向上に繋がります。発言が少ないメンバーにも問いかけを行うなど、参加を促します。
- 可視化: 議論の過程や出てきたアイデアを常に可視化(付箋、オンラインツールなど)することで、思考の整理や共有が容易になります。
- 時間管理: 各ステップにタイムボックスを設定し、時間内に終わるように意識します。深掘りしすぎると時間が足りなくなるため、必要に応じて「一旦ここまで」と区切りをつけることも重要です。
- 背景理解: 目的や期待成果は、より上位の目標や組織全体の戦略と整合している必要があります。ワークショップ開始前に、これらの背景をしっかりと共有しておくことが重要です。
- 形式にとらわれない: ここで紹介した手順はあくまで一例です。チームの状況や目的に応じて、手順や使用するツールを柔軟に調整してください。
まとめ
チームの取り組みの「目的」と「期待成果」を明確にすることは、単なる形式的な作業ではなく、チームの力を結集し、効率的かつ効果的に活動を進めるための土台となります。この「目的・期待成果明確化ワークショップ」を実践することで、チームの方向性が統一され、共通理解が深まり、主体的な活動が促進されます。
ぜひ、次にチームで新しい取り組みを始める際には、このワークショップを取り入れ、チームの潜在能力を最大限に引き出してください。明確な目的と期待成果は、チームを成功へと導く羅針盤となるでしょう。