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【実践ワーク】チームで潜在的なリスクを特定し、共通認識を持つワークショップ

Tags: チームワークショップ, リスク管理, 問題解決, 共通認識, アジャイル開発

チームでの問題解決や意思決定の場面では、すでに顕在化している課題への対応だけでなく、将来起こりうる潜在的な問題、つまり「リスク」に proactively に備えることが非常に重要です。特にソフトウェア開発チームにおいては、技術的な不確実性、要件の変更、チーム内のコミュニケーションミスなど、様々なリスクがプロジェクトの成功を妨げる可能性があります。

本記事では、チーム全体で協力して潜在的なリスクを特定し、それらに対する共通認識を持つための実践的なワークショップをご紹介します。このワークショップを通じて、予期せぬ事態への備えを強化し、より安定したチーム運営とプロジェクト遂行を目指します。

なぜチームでリスク特定と共有が必要なのか

リスクは、単に悪いことが起こる可能性というだけでなく、計画や目標達成を阻害する可能性のあるあらゆる不確実性を指します。チームでリスクを特定し共有することには、以下のメリットがあります。

このワークショップの目的は、チームメンバー一人ひとりの知識や経験を結集し、チームが直面する可能性のある潜在的なリスクを網羅的に洗い出し、それらを評価し、共通認識を持つことです。

リスク特定・共有ワークショップの進め方

ここでは、チームで実践できるリスク特定・共有ワークショップの具体的な手順を解説します。

準備

ワークショップのフェーズ

フェーズ1:リスクの洗い出し (20-30分)

このフェーズでは、チームメンバーそれぞれが思いつく潜在的なリスクをできるだけ多く洗い出します。

  1. 個人ワーク(10-15分):

    • 参加者それぞれが、事前に用意された付箋(またはオンライン付箋)に、チームやプロジェクトにおいて懸念される「潜在的なリスク」を1つずつ書き出します。
    • リスクは具体的な事象として記述します。「〜が遅れるかもしれない」「〜のスキルを持つ人がいない」「〜に関する情報が不足している」など。
    • 書き出しの視点例: 技術(新しい技術の習得、既存システムの制約)、プロセス(開発フロー、コミュニケーション、意思決定)、人間関係(メンバー間の対立、モチベーション低下)、外部環境(顧客からの要求変更、市場動向)、リソース(人員不足、予算)、情報(共有不足、ドキュメント不足)など。
    • 書いた付箋は、ホワイトボード(またはオンラインホワイトボード)に貼り出します。
  2. 共有とグルーピング(10-15分):

    • 貼り出された付箋を一つずつ読み上げ、内容を簡単に説明します。
    • 内容が似ているリスクや、関連性の高いリスクを近くに移動させ、グループ化します。この過程で、チームメンバー間での認識のずれがあれば議論し、明確化します。
    • ポイント: この段階では批判や否定はせず、すべての懸念を尊重する雰囲気を作ることが重要です。
  3. 命名と定義(5分):

    • グループ化されたリスク群に、分かりやすい名前を付けます。
    • それぞれのグループに属するリスクの内容を簡潔にまとめ、定義を明確にします。
フェーズ2:リスクの評価 (30-40分)

洗い出したリスクについて、その深刻度を評価します。評価基準として「発生可能性」と「発生した場合の「影響度」」を用いるのが一般的です。

  1. 評価基準の確認:

    • チームで「発生可能性」と「影響度」の評価基準を定義します。例えば、それぞれを「低」「中」「高」の3段階で評価する、または1〜5などの数値で評価する方法があります。
      • 発生可能性: 低(ほとんど起こらない)、中(起こる可能性がある)、高(かなり高い確率で起こる)。
      • 影響度: 低(軽微な遅延、小さな手戻り)、中(重要な機能の遅延、顧客満足度低下)、高(プロジェクトの中断、大きな損失)。
    • 評価基準の例を事前に示しておくと、議論がスムーズに進みます。
  2. リスクの評価:

    • 洗い出したリスク群に対し、チームで議論しながら「発生可能性」と「影響度」を評価し、付箋(またはオンライン付箋)に追記します。
    • 評価結果を可視化するために、縦軸を「影響度」、横軸を「発生可能性」とした2次元のマトリクス図(リスクマトリクス)を作成し、リスクを配置すると分かりやすいです。右上(発生可能性・影響度ともに高)に位置するリスクが最も対応の優先度が高いと考えられます。
フェーズ3:リスクへの対応検討(概要) (20-30分)

評価が高かったリスクを中心に、どのような対応が考えられるかブレインストーミングを行います。ここでは詳細な計画ではなく、対応の方向性やアイデア出しに留めます。

  1. 対応の方向性を検討:
    • 評価の高いリスクから順に、チームで以下の対応策について検討します。
      • 回避 (Avoid): リスク発生の可能性をゼロにする方法(例: 新しい技術の導入をやめる)。
      • 軽減 (Mitigate): リスク発生の可能性や、発生した場合の影響を減らす方法(例: 技術習得のための研修を行う、テストを強化する)。
      • 移転 (Transfer): リスクを第三者に移す方法(例: 専門業者に外注する、保険をかける)。
      • 受容 (Accept): リスクが発生する可能性や影響を許容し、特別な対策は講じない(ただし、発生した場合の対応計画は必要)。
    • それぞれの対応策について、簡単なアイデアを付箋に書き出し、リスクと紐づけて貼り出します。
フェーズ4:共通認識の構築とネクストステップ (10-15分)

洗い出し、評価、対応策の検討を行ったリスク全体をチームで確認し、共通認識を強固にします。そして、今後のリスク管理のプロセスについて合意します。

  1. 全体像の確認:
    • 洗い出された全てのリスク、その評価、検討された対応策をチーム全体で改めて確認します。特に評価の高かったリスクについては、チームで改めて認識を合わせます。
  2. 共通認識の確認:
    • これでチーム全体としてどのようなリスクが存在し、どれが重要で、どのような方向性で対応を検討していくべきか、共通の理解ができたか確認します。
  3. ネクストステップの決定:
    • このワークショップで洗い出したリスクを、今後どのように管理していくかを決めます。
    • 例えば、定期的なリスクレビュー会議を設定する、リスク一覧を共有ツール(Jira, Trelloなどのカンバンボード、Confluenceのドキュメントなど)に登録し、担当者と期限を割り当てて追跡するなど、具体的なアクションを決めます。
    • 特に評価が高く、対応策の検討が必要なリスクについては、誰がいつまでに具体的な計画を策定するかを明確にします。

ワークショップを成功させるためのポイント

まとめ

チームでのリスク特定・共有ワークショップは、単に問題の洗い出しを行うだけでなく、チームのコミュニケーションを活性化し、共通認識を深め、予期せぬ事態への対応力を高めるための強力な実践手法です。このワークショップを通じて、チームはより積極的にリスクに向き合い、それを乗り越えるための準備を進めることができます。

本日ご紹介した手順はあくまで一例です。ぜひ皆さんのチームの状況に合わせて内容を調整し、実践してみてください。継続的なリスク管理は、チームの安定稼働と持続的な成長に不可欠です。このワークショップが、皆さんのチームにおけるリスク管理文化を育む一助となれば幸いです。