【実践ワーク】チームでリスク軽減策を具体的に検討し、優先順位を決めるワークショップ
はじめに
プロジェクトや日々のチーム活動において、潜在的なリスクを特定することは非常に重要です。しかし、リスクをリストアップしただけで満足してしまい、具体的な対応策が曖昧なまま放置されてしまうケースも少なくありません。特定したリスクに対して、チームとしてどのように対応していくのか、どのような対策を優先すべきなのかを明確にすることは、プロジェクトの成功確率を高め、予期せぬ問題による手戻りや遅延を防ぐ上で不可欠です。
本記事では、すでに特定されているリスクリストを元に、チームで具体的な軽減策をブレインストーミングし、その効果や実行可能性、コストなどを考慮して優先順位を決定するための実践的なワークショップの進め方をご紹介します。このワークショップを通して、チーム全体がリスクとその対策について共通認識を持ち、具体的な行動計画へと繋げることができます。
ワークショップの目的
このワークショップの主な目的は以下の通りです。
- 特定されたリスクに対して、チームで実行可能な具体的な軽減策を多角的な視点から発想する。
- 発想された軽減策を評価し、チームの状況やリソースを踏まえて優先順位を決定する。
- 高優先度の軽減策について、具体的なネクストアクションと担当者を明確にする。
- チーム全体のリスク対応能力と安心感を向上させる。
ワークショップの準備
効果的なワークショップを実施するために、以下の準備を推奨します。
- リスクリストの準備: 事前にチームで特定したリスクリストを用意します。リスクの内容、発生可能性、影響度などが整理されているとよりスムーズに進められます。リスク特定がまだの場合は、先にリスク特定ワークショップを実施してください。
- 参加者: プロジェクトやチームの主要メンバー、リスクに関係するステークホルダーなどを幅広く含めます。多様な視点がブレインストーミングの質を高めます。理想的には5〜8名程度が望ましいですが、必要に応じて調整します。
- 時間: 内容にもよりますが、通常1.5時間から3時間程度の時間を確保します。リスクの数や複雑さに応じて調整してください。
- 場所とツール:
- 対面の場合: 会議室、ホワイトボード、マーカー、大量の付箋。
- オンラインの場合: オンラインホワイトボードツール(Miro, Mural, Jamboardなど)、ビデオ会議ツール(Zoom, Meetなど)。
ワークショップの進め方(手順)
ワークショップは以下のステップで進めます。
ステップ1:ワークショップの目的と流れの共有(10分)
- ファシリテーターは、本ワークショップの目的(リスク軽減策の検討と優先順位付け)と、本日の大まかな流れを参加者全体に共有します。
- なぜこのワークショップを行うのか、参加者にとってどのようなメリットがあるのかを明確に伝えることで、主体的な参加を促します。
- ブレインストーミングのルール(批判しない、自由に発想する、量を重視する、アイデアを組み合わせる・発展させるなど)を再確認します。
ステップ2:特定されたリスクのレビュー(15分)
- 事前に準備したリスクリストをチーム全体で確認します。
- 各リスクについて、その内容、想定される発生可能性、影響度などを簡単に振り返ります。
- 不明点や認識のずれがあれば、この段階で解消しておきます。全ての参加者がリスクの内容を理解していることが重要です。
ステップ3:リスクごとの軽減策ブレインストーミング(発散フェーズ)(30〜60分)
- リストアップされたリスクを一つずつ取り上げ、そのリスクを「どのように軽減できるか?」「どうすれば発生可能性を下げられるか?」「発生した場合の影響をどう最小限にできるか?」について、チームで自由にアイデアを発想します。
- ファシリテーターは各リスクを提示し、参加者は思いついたアイデアを付箋(オンラインツールの場合はデジタル付箋)に一つずつ書き出します。
- アイデアを出す際は、批判や否定をせず、どんな突飛なアイデアでも歓迎する雰囲気を作ります。
- 制限時間を設けて集中を促します。時間が来たら次のリスクに移ります。リスクの数が多い場合は、いくつかのグループに分けて並行して行うことも検討します。
ステップ4:アイデアの整理・グルーピング(収束フェーズ)(20〜30分)
- 書き出された大量の軽減策アイデアを整理します。
- 類似アイデアの統合: 同じようなアイデアや表現が違うだけのアイデアを一つにまとめます。
- 具体化・明確化: 曖昧な表現のアイデアがあれば、「それは具体的にどういうことか?」と問いかけ、チームで議論して内容を明確にします。
- アイデアを分かりやすいようにグルーピングすることも有効です(例:「技術的な対策」「組織的な対策」「プロセスに関する対策」など)。
ステップ5:軽減策の評価と優先順位付け(決定フェーズ)(30〜45分)
- 整理された軽減策アイデアについて、それぞれ評価を行い、優先順位を決定します。評価の観点としては、以下のようなものが考えられます。
- リスク軽減効果: その対策を実施することで、リスクの発生可能性はどれだけ下がるか? 影響度はどれだけ抑えられるか? (例:高・中・低、または点数)
- 実施コスト・労力: その対策を実施するために、どれくらいの時間、人員、費用が必要か? (例:大・中・小、または点数)
- 実施の実現可能性: その対策は、チームの現在の状況や制約の中で現実的に実施可能か? (例:高・中・低)
- これらの観点に基づき、各軽減策をチームで議論しながら評価していきます。ホワイトボードやオンラインツールを使って、一覧化すると比較しやすくなります。
- 評価結果を踏まえ、どの軽減策から着手すべきか、チームで合意形成を図りながら優先順位を決定します。例えば、「リスク軽減効果が高く、かつ実施コストが低い」対策は優先度が高くなる傾向があります。複数の観点をどのように組み合わせるかは、チームで事前に合意しておくか、議論しながら決定します。
- 最終的に、「実施する軽減策リスト」と「その優先順位」が明確になります。
ステップ6:ネクストアクションの決定(15分)
- 優先順位の高い軽減策について、具体的なネクストアクションを決定します。
- 「誰が(担当者)」、「何を(具体的なタスク内容)」、「いつまでに(期日)」、「完了の定義は何か」を明確に定義します。
- 決定されたアクションを、プロジェクト管理ツールやタスクリストに登録します。
効果を出すためのポイント
- 心理的安全性: 自由な発想と率直な意見交換ができるよう、心理的に安全な場づくりを意識します。特にブレインストーミングフェーズでは、アイデアの質を評価せず、量と多様性を奨励します。
- ファシリテーション: ファシリテーターは、時間管理、プロセスの進行、全員が発言しやすい雰囲気作り、議論が脱線した際の軌道修正などを行います。参加者から意見を引き出し、合意形成をサポートする重要な役割です。
- 具体的なシナリオ: リスクが現実になった際の具体的なシナリオを想像しながらブレインストーミングを行うと、より実践的なアイデアが出やすくなります。
- 評価基準の合意: 軽減策の評価を行う前に、チームとして「リスク軽減効果」「コスト」「実現可能性」などの評価観点をどのように捉え、何を重視するかを事前に共有・合意しておくことが重要です。
- アクションへの接続: ワークショップで決定した軽減策が単なるリストで終わらないよう、具体的な担当者と期日を含むアクションアイテムに落とし込むことが最も重要です。そして、それらのアクションが実行されているかを定期的にフォローアップする仕組みも検討します。
まとめ
リスクを特定するだけでなく、それに対する具体的な軽減策をチームで検討し、優先順位を付けて実行に移すことは、チームの予見性と対応能力を高める上で非常に価値があります。本ワークショップは、このプロセスをチームで体系的に行うための実践的なアプローチを提供します。
チームメンバー全員がリスクとその対策について共通認識を持つことで、不確実性に対する不安が軽減され、より自信を持ってプロジェクトに取り組めるようになります。また、具体的なアクションが明確になることで、チームとして何に注力すべきかが分かり、リソースを効果的に配分できるようになります。
このワークショップは一度きりではなく、プロジェクトのフェーズが進んだり、状況が変化したりするたびに定期的に実施することで、継続的なリスクマネジメントが可能となります。ぜひ、皆様のチームで実践してみてください。