【実践ワーク】チームで複数の未来シナリオを検討し、不確実性に対応するワークショップ
チームで不確実性に対応するシナリオプランニングワークショップ
現代は変化が速く、予測困難な「不確実性の高い時代」と呼ばれています。このような環境下では、単一の計画に固執するのではなく、複数の可能性のある未来を想定し、それぞれに対応できる柔軟な戦略を持つことがチームの成功に不可欠となります。シナリオプランニングは、チームが将来起こりうる様々な状況を検討し、それらに備えるための強力なツールです。
このワークショップの目的は、チームメンバー間で将来に対する共通の認識を形成し、どのような未来が訪れても対応できるようなレジリエンス(回復力、適応力)の高い戦略を策定することにあります。理論だけでなく、実際にチームでどのようにシナリオプランニングを進めるのか、具体的な手順を追ってご紹介します。
シナリオプランニングワークショップの手順
シナリオプランニングにはいくつかの手法がありますが、ここではチームで取り組みやすい一般的な手順をご紹介します。ワークショップ形式で行うことで、多様な視点を取り入れ、参加者全員のエンゲージメントを高めることができます。所要時間はテーマの範囲や参加人数によって変動しますが、数時間から1日以上かかることもあります。
準備:
- 参加者: チームメンバーに加え、関連部署の代表者や外部の専門家など、多様な視点を持つメンバーを含めることが望ましいです。
- ツール: 付箋、ペン、ホワイトボードまたは模造紙、オンラインで行う場合はMiroやFigJamのような共同作業ツール。
- 資料: 検討対象となるテーマに関する現状データやトレンド資料など、インプットとなる情報。
手順:
ステップ1: ワークショップの目的と範囲を設定する
まず、なぜこのシナリオプランニングを行うのか、その目的を明確にします。例えば、「今後3年間の製品開発戦略における不確実性に対応するため」「新しい市場への参入に伴うリスクと機会を検討するため」などです。同時に、どの範囲(期間、対象領域)についてシナリオを検討するのかを定めます。これにより、以降の議論が焦点ぼけせず、具体的なアウトプットにつながります。
- ポイント: 参加者全員で目的と範囲を共有し、合意を得ることが重要です。
ステップ2: 将来を動かす推進力(Driving Forces)を特定する
チームでブレインストーミングを行い、設定した範囲の将来に影響を与える可能性のある重要な要因(推進力)をできるだけ多くリストアップします。これらは、経済、技術、社会、政治、環境など、様々な側面から考えられます。
- 例: 技術革新のスピード、法規制の変更、競合の動向、顧客ニーズの変化、採用市場の状況、リモートワークの浸透度合いなど。
- ポイント: 幅広い視点から、網羅的に要因を洗い出します。現時点ではその確実性や重要性は問わず、自由に出し合います。
ステップ3: クリティカルな不確実性(Critical Uncertainties)を特定する
ステップ2で洗い出した推進力の中から、特に重要度が高く、かつその将来が不確実である要因を特定します。これらの要因は、将来のシナリオを分ける鍵となります。多くの要因がリストアップされるため、グループ化したり、重要度と不確実性のマトリクスなどを使って絞り込むと効果的です。最終的に、シナリオを構築するための中心となる、最も重要で不確実性の高い要因を2つ選びます。
- ポイント: チーム内で議論し、どの2つの要因が最もシナリオを左右する「軸」となるか、合意形成を図ります。
ステップ4: シナリオ軸を定義する
ステップ3で選んだ2つのクリティカルな不確実性について、それぞれの極端な状態を定義します。例えば、「技術革新のスピード」であれば「非常に速い」と「非常に遅い」、「法規制」であれば「緩和される」と「強化される」といった具合です。
- ポイント: 極端な状態を定義することで、対照的なシナリオを描きやすくなります。
ステップ5: シナリオの構築
ステップ4で定義した2つの軸を使い、2x2のマトリクスを作成します。このマトリクスの4つの象限が、検討すべき異なる未来のシナリオの出発点となります。それぞれの象限について、具体的なストーリーを想像し、シナリオを詳細に記述します。
- 例: 軸1が「技術革新のスピード」(速い/遅い)、軸2が「市場の競争環境」(激化/緩和)の場合、
- シナリオA: 技術革新が速く、競争が激化する未来
- シナリオB: 技術革新が遅く、競争が激化する未来
- シナリオC: 技術革新が速く、競争が緩和される未来
- シナリオD: 技術革新が遅く、競争が緩和される未来
- それぞれのシナリオにおいて、どのような出来事が起こりうるか、顧客や競合はどのように行動するか、自社を取り巻く環境はどのように変化するかなど、具体的にストーリーを紡ぎます。ストーリーにはタイトルをつけ、描写を加えることで、より鮮明な未来像を描くことができます。
- ポイント: 各シナリオは、論理的に整合性が取れており、かつ互いに明確に異なるものである必要があります。参加者全員で創造力を働かせ、既成概念にとらわれずに発想することが重要です。
ステップ6: 各シナリオの意味合いを検討する
構築した各シナリオが、現在のチームの戦略や目標にどのような影響を与えるかを詳細に分析します。それぞれのシナリオにおいて、どのようなリスクが存在するか、どのような機会が生まれるか、現在の戦略は有効かなどを議論します。
- ポイント: 「もしこのシナリオが現実になったら、私たちのチームはどうなるか?」「私たちの目標達成は可能か?」といった問いを立て、具体的な影響を洗い出します。
ステップ7: 対応策を検討する
各シナリオの影響を検討した結果を踏まえ、それぞれのシナリオに対する対応策や、どのようなシナリオでも有効であるような頑健な戦略をブレインストーミングします。これは、リスクへの備えや、機会を最大限に活かすための具体的な行動計画につながります。
- 例: 特定のシナリオで技術変化が速い場合、新しい技術習得のための研修計画を立てる。別のシナリオで市場競争が激化する場合、顧客ロイヤルティを高める施策を強化するなど。
- ポイント: 短期的な対応策と長期的な戦略の両方を検討します。チームの強みや弱みを踏まえて、実行可能な対応策を考えます。
ステップ8: 先行指標(Leading Indicators)を設定する
それぞれのシナリオへの動きを示唆する可能性のある「早期警戒信号」となる指標を設定します。これにより、将来どのシナリオに近づいているかを早期に察知し、対応策を速やかに実行に移せるようになります。
- 例: 特定技術の普及率、競合の発表、特定の法案の進捗状況、特定のキーワード検索数の変化など。
- ポイント: 定期的にこれらの指標をモニタリングする体制をチームで作ることが重要です。
ワークショップを成功させるためのポイント
- 多様な参加者: チーム内外から多様な視点を持つメンバーを集めることで、より包括的で創造的なシナリオを検討できます。
- オープンな雰囲気: どのようなアイデアや懸念も自由に発言できる心理的に安全な場を作ることが重要です。
- ファシリテーション: 議論が脱線せず、時間内に目的を達成できるよう、経験のあるファシリテーターが進行役を務めることを推奨します。
- 視覚化の活用: マトリクスや付箋などを活用し、議論の過程や結果を視覚化することで、参加者の理解を助け、共通認識を深めます。
- 継続的なプロセス: シナリオプランニングは一度行えば終わりではなく、定期的に見直し、必要に応じて更新していく継続的なプロセスとして捉えることが大切です。
まとめ
シナリオプランニングワークショップは、不確実性の高い状況下でチームが将来にわたって効果的に機能し続けるための強力な手段です。複数の未来を想像し、それらに対する対応策を事前に検討することで、チームのレジリエンスを高め、変化に柔軟に対応できる体質を作ることができます。
このワークショップを通じて、チームメンバーは将来に対する共通の理解を深め、リスクを機会に変えるための視点を持つことができるでしょう。ぜひ、この記事でご紹介した手順を参考に、チームでシナリオプランニングを実践してみてください。未来は予測するものではなく、備え、そして創造していくものです。