【実践ワーク】チームで状況を分析し、戦略を練るSWOT分析ワークショップ
チームで仕事を進める上で、置かれている状況を正確に理解し、取るべき戦略を検討することは非常に重要です。しかし、個人 individual がそれぞれ断片的な情報しか持っていなかったり、共通認識がなかったりすると、効果的な意思決定や連携が難しくなります。
SWOT分析は、この状況認識と戦略検討を体系的に行うための強力なフレームワークです。そして、このSWOT分析をチームで共同で行うことで、個人の知識や視点を集約し、より多角的で正確な現状把握と、チーム全員が納得できる戦略オプションの検討が可能になります。
この記事では、チームでSWOT分析を実践するためのワークショップ形式での進め方、必要な準備、成功のためのポイントを具体的に解説します。
SWOT分析とは
SWOT分析は、事業やプロジェクト、チームなどが置かれている状況を、以下の4つの要素に分解して分析するフレームワークです。
- S (Strengths - 強み): 組織やチーム、プロジェクトなどが持つ、競争優位に繋がる内部のポジティブな要素。例:高い技術力、経験豊富なメンバー、強固な顧客基盤、効率的なプロセス。
- W (Weaknesses - 弱み): 組織やチーム、プロジェクトなどが抱える、改善が必要な内部のネガティブな要素。例:リソース不足、特定のスキル欠如、非効率なコミュニケーション、 outdated な技術スタック。
- O (Opportunities - 機会): 外部環境における、組織やチームにとって有利に働く可能性のあるポジティブな要素。例:新しい市場の出現、競合の撤退、技術革新、法規制緩和、顧客ニーズの変化。
- T (Threats - 脅威): 外部環境における、組織やチームにとって不利に働く可能性のあるネガティブな要素。例:新規競合の参入、市場の縮小、技術の陳腐化、法規制強化、自然災害。
SとWは組織の「内部環境」、OとTは組織を取り巻く「外部環境」に関する要素です。SWOT分析は、これらの要素を洗い出し、整理することで、現状を俯瞰し、戦略的な方向性を検討するための出発点となります。
なぜチームでSWOT分析を行うべきか
SWOT分析は個人で行うことも可能ですが、チームで行うことには以下のような大きな利点があります。
- 多角的な視点: チームメンバーそれぞれの経験や専門知識、立場からの視点を取り入れることで、より網羅的かつ深い分析が可能になります。
- 共通理解の醸成: 分析プロセスを共有することで、チーム全体の状況認識のズレを解消し、共通の課題意識や機会に対する理解を深めることができます。
- 当事者意識の向上: 分析に主体的に関わることで、メンバーの当事者意識が高まり、導き出された戦略やアクションプランへのコミットメントが強化されます。
- アイデアの創出: 複数の要素を組み合わせたクロス分析の段階で、多様な意見やアイデアが生まれやすくなります。
チームSWOT分析ワークショップの進め方
ここからは、具体的なワークショップ形式での進め方をステップごとに解説します。
準備
ワークショップの成功は準備にかかっています。以下の点を事前に明確にしておきましょう。
- 目的の明確化: なぜSWOT分析を行うのか? 特定のプロジェクトの戦略を立てたいのか、チーム全体の課題を把握したいのか、新製品の方向性を議論したいのかなど、目的を明確にします。これにより、分析の対象範囲が定まります。
- 対象の定義: 分析の対象となる「何か」(例:特定の製品・サービス、チームの活動、会社全体など)を明確に定義します。
- 参加者: 分析対象に関わる主要なメンバーを選定します。多様な視点を持つメンバーが含まれるように考慮します。
- 時間と場所/ツール: ワークショップに必要な時間(目安:2〜3時間)と場所(ホワイトボードや模造紙が使える会議室、またはオンラインワークショップツールの環境)を確保します。オンラインの場合は、Miro, Muralなどの共同作業が可能なツールが便利です。
- 必要なもの: 付箋(色分けすると便利)、ペン、ホワイトボードまたは模造紙、オンラインツールの場合はアカウントと準備。
ステップ1: 外部環境の分析(O, T)
まず、チームを取り巻く外部環境に焦点を当てます。ここでは、自社のコントロールが及ばない要素を洗い出します。
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機会(Opportunities)の洗い出し(20〜30分)
- 問いかけ: 「私たちのチームや対象にとって、外部に存在する有利な状況やチャンスは何でしょうか?」「市場のトレンド、技術、顧客ニーズ、競合の動きなど、追い風となる要素は何ですか?」
- 進め方: 参加者各自が、思いつく機会を付箋に1つずつ書き出します。書けたら声に出して読み上げながらホワイトボードやツール上のOのエリアに貼ります。
- 補足: 必要に応じて、PEST分析(政治 Political, 経済 Economic, 社会 Social, 技術 Technological)のようなフレームワークを参考に、発想を広げても良いでしょう。
- 共有とグルーピング: 全員のアイデアが出揃ったら、似たようなアイデアをまとめてグルーピングします。それぞれのアイデアについて簡単に説明や補足を行います。
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脅威(Threats)の洗い出し(20〜30分)
- 問いかけ: 「私たちのチームや対象にとって、外部に存在する不利な状況やリスクは何でしょうか?」「市場の変化、競合の新たな動き、技術の陳腐化、法規制など、向かい風となる要素は何ですか?」
- 進め方: 機会と同様に、各自が思いつく脅威を付箋に書き出し、読み上げながらTのエリアに貼ります。
- 共有とグルーピング: 全員のアイデアが出揃ったら、似たようなアイデアをまとめてグルーピングし、内容を確認します。
ステップ2: 内部環境の分析(S, W)
次に、チームや分析対象自身の内部に焦点を当てます。ここでは、自社がコントロール可能な要素を洗い出します。
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強み(Strengths)の洗い出し(20〜30分)
- 問いかけ: 「私たちのチームや対象が持っている、他のチームや競合と比べて優れている点、得意なことは何でしょうか?」「内部リソース、スキル、経験、プロセス、組織文化など、成功に貢献しているポジティブな要素は何ですか?」
- 進め方: 各自が思いつく強みを付箋に書き出し、読み上げながらSのエリアに貼ります。
- 共有とグルーピング: 全員のアイデアが出揃ったら、グルーピングし、内容を確認します。主観だけでなく、客観的な事実に基づいているかどうかも議論すると良いでしょう。
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弱み(Weaknesses)の洗い出し(20〜30分)
- 問いかけ: 「私たちのチームや対象が抱えている課題、他のチームや競合と比べて劣っている点、苦手なことは何でしょうか?」「内部リソース、スキル、経験、プロセス、組織文化など、改善が必要なネガティブな要素は何ですか?」
- 進め方: 各自が思いつく弱みを付箋に書き出し、読み上げながらWのエリアに貼ります。
- 共有とグルーピング: 全員のアイデアが出揃ったら、グルーピングし、内容を確認します。認めたくない弱みについても、正直に議論できる雰囲気が重要です。
ステップ3: クロスSWOT分析と戦略オプションの検討
洗い出した4つの要素を組み合わせて、戦略的なアイデアやアクションプランを検討します。これがSWOT分析の最も重要な段階です。
- 戦略オプションの検討(40〜60分)
- クロスSWOTの考え方:
- SO戦略 (Strengths + Opportunities): 強みを活かして機会を最大限に利用する戦略。
- WO戦略 (Weaknesses + Opportunities): 弱みを克服して機会を捉える戦略。
- ST戦略 (Strengths + Threats): 強みを使って脅威を回避または軽減する戦略。
- WT戦略 (Weaknesses + Threats): 弱みを克服しつつ、脅威による影響を最小限に抑える戦略(防御策)。
- 進め方:
- クロスSWOTマトリクス(SO, WO, ST, WTの4象限)を用意します。
- 参加者全員で、ステップ1, 2で洗い出したS, W, O, Tの各要素を組み合わせて、具体的な戦略アイデアやアクションプランを考えます。
- 例:「我々の[S:高い技術力]を活かして、[O:新しい市場]に参入するには、具体的にどのような[アクション]が必要か?」
- 出てきたアイデアを、対応する象限(SO, WO, ST, WT)に付箋で貼り付けていきます。
- 量が重要です。批判はせず、可能な限りのアイデアを出し合います。
- 各アイデアについて、なぜその組み合わせから生まれたのかを簡単に説明します。
- クロスSWOTの考え方:
ステップ4: 戦略オプションの評価と絞り込み
出てきた戦略オプションの中から、最も重要だと思われるものや、すぐに実行可能なものなどを評価し、絞り込みます。
- 評価と優先順位付け(20〜30分)
- 進め方:
- クロスSWOT分析で生まれたアイデアを一覧します。
- ワークショップの目的に照らして、どのアイデアが最も効果的か、実現可能性はどうかなどを基準に議論します。
- 多くのアイデアがある場合は、ドット投票などを使って、参加者の関心が高いアイデアを絞り込むことも有効です。
- 最終的に、実行に移すべき具体的な戦略やアクションプランをいくつか選定します。
- 進め方:
終了
ワークショップで洗い出された要素と、決定された戦略オプションやアクションプランを明確に記録します。誰が、いつまでに、何を行うのか、次のステップを具体的に定義します。
ワークショップを成功させるためのポイント
- 心理的安全性の確保: 弱みや脅威についても正直に話せる雰囲気を作ることが最も重要です。ファシリテーターは、批判をせず、多様な意見を歓迎する姿勢を示します。
- ファシリテーション: ワークショップの進行役は、時間管理、議論の活性化、脱線防止、全員の発言機会の確保など、円滑な進行を担います。事前の準備と、その場での柔軟な対応が求められます。
- 視点の多様性: 可能であれば、異なる部署や役割を持つメンバーを参加させることで、より幅広い視点からの分析が可能になります。
- 具体的な記述: 付箋に書く内容は、抽象的な言葉ではなく、具体的で分かりやすい言葉遣いを心がけます。
- 「なぜ?」を問いかける: 各要素が出た際に、「なぜそれが強み(弱み、機会、脅威)だと考えるのか?」と問いかけることで、表面的な議論に留まらず、本質に迫ることができます。
- 現実との整合性: 出てきた要素が、チームや組織の現実と乖離していないか、客観的なデータや事実に基づいているかを適宜確認します。
まとめ
SWOT分析は、チームが置かれた状況を体系的に理解し、効果的な戦略を検討するための非常に有用なフレームワークです。特に、チームでワークショップ形式で取り組むことで、メンバー間の共通理解を深め、当事者意識を高めながら、実践的な戦略オプションを生み出すことができます。
この記事で紹介した手順を参考に、ぜひ皆様のチームでもSWOT分析ワークショップを実践してみてください。洗い出された要素や生まれたアイデアは、その後の具体的な計画立案や意思決定の基礎となるはずです。定期的にこのワークショップを実施することで、変化する状況に柔軟に対応できる強いチームを築くことができるでしょう。
次のステップとしては、このSWOT分析の結果から生まれた戦略オプションを、具体的な行動計画に落とし込んだり、優先順位決定のワークショップを実施したりすることが考えられます。