【実践ワーク】チームで真の課題を見つける問題定義ワークショップ
チームで取り組む問題定義の重要性
チームで何か問題が発生したとき、私たちはしばしば目の前の事象や症状に目を奪われがちです。「バグが多い」「会議で発言が少ない」「納期に間に合わない」といった具体的な出来事は、確かに問題の兆候です。しかし、これらの表面的な問題だけに対処しようとしても、根本的な解決には繋がらないことが少なくありません。
例えば、「バグが多い」という問題の背景には、「テストプロセスが不十分」「要求仕様が曖昧」「開発環境にばらつきがある」「チーム間の連携がうまくいっていない」など、さまざまな根本原因が隠れている可能性があります。表面的なバグ修正だけを繰り返しても、根本原因が放置されていれば、バグは再発し続けるでしょう。
真の問題解決の第一歩は、「何が本当の課題なのか」をチーム全体で深く理解し、明確に定義することです。このプロセスを丁寧に行うことで、チームは共通認識を持ち、効果的な解決策の検討に進むことができます。
本記事では、チームで真の課題を特定するための実践的な問題定義ワークショップの手順と、成功のためのポイントを解説します。
問題定義ワークショップの概要
このワークショップは、チームが抱える漠然とした「モヤモヤ」や表面的な問題を、具体的な「解決すべき真の課題」として明確にすることを目的に実施します。
- 目的:
- チームが認識している問題や課題の全体像を共有する。
- 表面的な事象の裏にある、根本的な原因や構造を掘り下げる。
- チームとして取り組むべき真の課題を定義し、合意形成を図る。
- 所要時間目安: 90分~120分程度(問題の複雑さや参加人数による)
- 参加者: 問題に関わるチームメンバー全員
問題定義ワークショップの手順
以下のステップでワークショップを進めます。各ステップでチーム全体の意見を共有し、可視化することを重視します。
ステップ1:現状共有とモヤモヤの洗い出し(15-20分)
まずは、チームメンバーそれぞれが感じている「問題」「課題」「気になること」「モヤモヤ」を自由に書き出します。
- 個人ワーク(5分): 付箋またはオンラインホワイトボードツールに、一人につき複数のモヤモヤや問題を具体的に書き出します。例えば、「○○機能のバグが先月より20件増えた」「定例会議で特定のメンバーしか発言しない」「プルリクエストのレビューに時間がかかりすぎる」など、具体的な事実や感じていることを記述します。付箋1枚につき1つのモヤモヤを書きましょう。
- 共有と貼り出し(10-15分): 参加者が順番に書き出した付箋を発表し、ホワイトボードや共有スペースに貼り出します。発表者は簡単に内容を説明し、他のメンバーは傾聴します。ここでは、内容の善し悪しや解決策の議論はせず、まずは全ての意見を出し切ることを優先します。類似するものは近くに貼っても構いませんが、まとめすぎないようにします。
ステップ2:表面的な問題の特定と整理(20-25分)
貼り出されたモヤモヤの中から、表面的な問題と思われるものを特定し、関連性に基づいて整理します。
- グルーピング(10-15分): 貼り出された付箋を、内容が似ているものや関連性の高いもの同士でグルーピングします。これはKJ法や親和図法の簡易版のようなイメージです。チームで対話しながら、「これは○○に関する問題群だね」「これは△△の症状かな」といった具合に進めます。グループには簡単なラベルをつけます。
- 表面的な問題の特定(10分): 各グループや、特に目立つ付箋群から、チームが直面している「表面的な問題」を特定します。例えば、「バグの多発」「コミュニケーション不足」「タスクの遅延」といった言葉で表現してみます。これらはまだ根本原因ではありませんが、問題の入り口として重要です。ここで、チームとして最も優先して深掘りしたい表面的な問題を1つか2つ選びます。
ステップ3:根本原因の深掘り(30-40分)
特定した表面的な問題に対して、「なぜ」を繰り返すことで、その背景にある根本原因を探ります。
- 「なぜなぜ分析」の実施(25-35分): ステップ2で特定した表面的な問題について、「なぜそれが起こるのか?」と問いかけ、出てきた答えに対してさらに「なぜ?」と問いかけます。これを5回程度繰り返す、あるいは根本原因と思われるものに行き着くまで続けます。例えば、「バグが多い」→「なぜ?」→「テストで見つけられていないから」→「なぜ?」→「テストケースが網羅的ではないから」→「なぜ?」→「テスト設計の時間を十分に確保できていないから」... のように掘り下げます。このプロセスも付箋やホワイトボードを使って可視化すると、原因と結果の関係性が分かりやすくなります。魚骨図(特性要因図)などのツールも有効です。
- 潜在的な根本原因の特定(5分): なぜなぜ分析の結果から、最も可能性が高く、チームとして影響を与えられる根本原因候補をいくつか特定します。単一の原因ではなく、複数の原因が複合的に絡み合っていることも多いです。
ステップ4:真の課題ステートメントの作成(15-20分)
特定した根本原因を踏まえ、解決すべき「真の課題」を明確な言葉で定義します。
- 課題ステートメントの構成要素確認(5分): 課題ステートメントは、一般的に以下の要素を含むと効果的です。
- 誰が/何が: 誰/何がこの問題を抱えているか(例: 開発チーム)
- 何が起きているか: 具体的な問題の事象(例: バグが多い)
- なぜ起きているか: 特定された根本原因(例: テスト設計の時間が不足しているため)
- 結果どうなるか: 問題が解決されない場合の影響(例: ユーザー満足度が低下し、改修コストが増加する)
- ステートメント作成(10分): ステップ3で深掘りした根本原因とステップ2で特定した表面的な問題、そしてその影響を組み合わせて、課題ステートメント案を作成します。「〜であるため、〜という課題があり、その結果〜という影響が出ている」のようなテンプレートを使用すると作成しやすくなります。
- チームでの合意形成(5分): 作成した課題ステートメント案をチーム全体で共有し、最も適切にチームの状況を表しているか、全員が納得できるかを議論し、最終的な課題ステートメントを決定します。必要に応じて複数の課題を定義しても構いませんが、まずは最も重要と思われるものに絞るのが一般的です。
ステップ5:次のステップの明確化(5-10分)
定義された真の課題に対して、今後どのように取り組むかを簡単に確認します。
- 課題解決に向けたアクションの検討(5分): 定義した課題を解決するために、次に何をすべきか(例: 解決策のアイデア出し、具体的な計画策定、担当者・期限の設定など)を簡単に話し合います。
- ワークショップの成果確認(5分): 定義した課題ステートメントを参加者全員で再確認し、ワークショップで何が決まったかを明確にします。必要であれば、次のアクションの担当者と期限を決めます。
ワークショップを成功させるためのポイント
- ファシリテーターの役割: ワークショップがスムーズに進むよう、時間管理、全員の発言機会の確保、意見の引き出し、対話の促進、議論の脱線の防止など、ファシリテーターが重要な役割を担います。中立的な立場を保ち、参加者自身が答えを見つけられるよう支援します。
- 安全な場の確保: どんな意見でも安心して出せる心理的に安全な場を作ることが不可欠です。他者の意見を否定せず、傾聴する姿勢をチーム全体で共有します。
- 可視化の徹底: 付箋やホワイトボード、オンラインツールなどを活用し、出された意見、グルーピングの結果、なぜなぜ分析の過程、最終的な課題ステートメントなど、全ての情報を可視化します。これにより、チーム全体の理解を深め、後からの振り返りも容易になります。
- 完璧を目指さない: 短時間で全ての原因を特定したり、完璧な課題ステートメントを作成したりすることは難しい場合もあります。まずはチームの共通認識を作り、最も可能性の高い真の課題を定義することを目標とします。必要であれば、後日再度深掘りすることも可能です。
- 次のアクションに繋げる: 定義した課題をそのままにせず、必ず具体的な解決策の検討やアクションプランの策定に繋げることが重要です。本ワークショップは問題解決プロセスの最初のステップであることを意識します。
まとめ:真の課題特定が問題解決を加速させる
チームで問題定義のプロセスを丁寧に行うことは、表面的な対応に終始することを防ぎ、根本的な問題解決への道筋を明確にします。今回ご紹介したワークショップは、チームメンバー間の認識のずれを解消し、全員が同じ方向を向いて課題解決に取り組むための強力なツールとなります。
特に、開発チームにおいては、日々様々な問題が発生します。本ワークショップを定期的に実施することで、チームの課題発見能力と問題解決能力を高めることができます。ぜひ、チームで実践し、真の課題を見つけ、より効果的な活動に繋げてください。