【実践ワーク】チームの行動指針を定める価値観共有ワークショップ
チームの行動指針を定める価値観共有ワークショップ
チームとして日々の活動を進める中で、「何が正しい判断か」「どのように協力すべきか」といった問いに迷うことはないでしょうか。チームのメンバー一人ひとりが異なる経験や考え方を持っているのは自然なことですが、共通の価値観や原則が不明確であると、コミュニケーションの齟齬や意思決定の遅れを招くことがあります。
本記事では、チームメンバーが互いの内面にある「大切にしたいこと」を共有し、チーム全体の行動の軸となる価値観や原則を定義するための実践的なワークショップを紹介します。このワークショップを通じて、チームの一体感を高め、より効果的な問題解決や意思決定を行うための基盤を築くことを目指します。
なぜチームの価値観・原則が重要なのか
チームにおける共通の価値観や原則は、例えるならチームの「憲法」や「地図」のようなものです。 * 意思決定の迅速化と一貫性: 迷った際に立ち返る基準があることで、個々の判断がブレにくくなり、迅速な意思決定が可能になります。 * コンフリクトの予防と解決: 互いの「大切にしたいこと」を理解し合うことで、無用な摩擦を減らし、意見の対立が起きた際も建設的に話し合う土台ができます。 * チームの一体感と帰属意識の向上: 共通の目標だけでなく、共通の価値観を持つことで、メンバー間の絆が深まり、「このチームの一員である」という意識が高まります。 * 採用やオンボーディングの基準: 新しいメンバーを迎える際に、チームの文化や行動様式を伝える明確な基準となります。
特に、自己組織化を目指すアジャイルチームや、自律的な判断が求められる開発チームにとって、共通の価値観や原則は、メンバーが自信を持って行動するための重要な指針となります。
チーム価値観共有ワークショップの概要
このワークショップは、チームメンバー全員で話し合い、チームとして大切にしたい価値観や、それを実現するための具体的な行動原則を明らかにするプロセスです。
- 目的: チームメンバー個人の価値観を共有し、チームとして共通の価値観および行動原則を定義する。
- 期待される効果: チームの方向性の明確化、メンバー間の相互理解促進、意思決定の質の向上、チーム文化の醸成。
- 所要時間: 2時間から4時間程度(参加人数や議論の深さにより調整)
- 参加者: チームメンバー全員。可能であれば、チームリーダーやマネージャーも参加し、サポートに回ることが望ましいです。
- 準備物:
- 付箋(一人あたり30枚程度)
- ペン
- ホワイトボード、または模造紙
- オンライン実施の場合は、MiroやMuralなどのオンラインホワイトボードツール
ワークショップの具体的な手順
ステップ1: 個人ワーク - 自分の価値観を洗い出す(30分)
- 目的: チームや仕事に対して、個人的に「何を大切にしているか」を自由に言語化する。
- 手順:
- 参加者一人ひとりに付箋とペンを配布します。
- 以下の問いかけをします。
- チームとして活動する上で、「これだけは譲れない」と思うことは何ですか?
- どんな時に「このチームで働いていて良かった」と感じますか?
- 逆に、どんな時に「これは違うな」と感じやすいですか?
- チームとして、どのような状態を目指したいですか?
- 仕事において、個人的に特に重要視している考え方や姿勢は何ですか?
- 上記の問いに対する答えや、それに類する考えを、付箋1枚につき1つ、単語または短いフレーズで自由に書き出してもらいます。量に制限はありません。質より量を意識し、頭に浮かんだものを検閲せずに書き出すことを促します。
- ポイント:
- ポジティブなものだけでなく、「無駄な会議はしたくない」「責任のなすりつけ合いは避けたい」といったネガティブな願望の裏返しにある価値観も重要であることを伝えます。
- 周りを気にせず、個人の内面と向き合う時間に集中してもらいます。
ステップ2: チーム共有 - 価値観を共有し、グルーピングする(60分)
- 目的: 個人の価値観をチーム全体で共有し、共通項や傾向を見出す。
- 手順:
- ホワイトボードや模造紙(オンラインツールの場合は共有スペース)の中央に、付箋を貼るスペースを確保します。
- 参加者が順番に、自分が書き出した付箋を1枚ずつ、声に出して読み上げながら貼り付けていきます。貼り付ける際は、似ていると思われる付箋の近くにまとめて貼るように促します。
- 全員が貼り終えたら、全体を俯瞰します。似たような内容の付箋が集まっている場所を「島」とし、その島を代表する抽象的なキーワード(例: 「信頼」「成長」「透明性」「成果志向」など)をチームで話し合って決め、その島の上に書き加えます。
- 必要に応じて、さらに大きなまとまりでグループ化を検討します。
- ポイント:
- 付箋を読み上げている間は、他の参加者は傾聴し、批判や否定をしない雰囲気を作ります。
- グループ化のプロセスでは、活発な対話と解釈の共有を促します。「これはどういう意味で書きましたか?」「これはあの付箋と似ていますね」など、ファシリテーターが問いかけながら進めます。
- オンラインツールの場合は、アフィニティマッピング機能などを活用すると便利です。
ステップ3: チーム合意 - 共通の価値観を選定・定義する(60分)
- 目的: グループ化された価値観の中から、チームとして特に重要視するものを数個選定し、その意味するところを具体的に定義する。
- 手順:
- ステップ2で抽出されたグループキーワードを見ながら、チームとして「これこそが自分たちのチームの軸となる」「特に大切にしていきたい」と思うものを3〜5個程度選びます。投票や点数付けなども有効ですが、最終的にはなぜそれを選ぶのかを話し合い、チームとして納得感を持って決定することが重要です。
- 選定したそれぞれの価値観について、「この価値観は、私たちのチームにとって具体的にどのような状態を指すのか」「この価値観を大切にすることで、私たちはどのように行動するのか」といった点を深く掘り下げて話し合い、具体的な言葉で定義します。
- 例: 価値観「信頼」
- 抽象的な定義: メンバー同士が互いに信じ合い、安心して意見を言える状態。
- 具体的な定義: 「私たちは、相手の意図を善と捉え、オープンにコミュニケーションを取ります」「失敗を責めず、学びとして共有します」
- 例: 価値観「信頼」
- 定義した内容を、分かりやすい言葉で記述します。
- ポイント:
- 「なぜこの価値観を選びたいのか」という背景や理由を共有することを促します。
- 定義は抽象的なスローガンに留まらず、チームメンバーが日々の活動で意識できる、具体的な行動に繋がる表現を目指します。
ステップ4: 実践への落とし込み - 行動原則(プリンシプル)を言語化する(30分)
- 目的: 定義した価値観を、日々の活動で参照できる具体的な行動指針(原則)に変換する。
- 手順:
- ステップ3で定義した価値観それぞれについて、「この価値観を実現するために、私たちは具体的にどのような行動を取るべきか」を考え、箇条書きの行動原則として書き出します。
- 例: 価値観「透明性」に基づき、行動原則として「情報は積極的にSlackチャンネルで共有する」「個別のやり取りで決まったことも、後で全体にブロードキャストする」「決定に至った背景は必ず説明する」などを具体的に記述します。
- これらの行動原則は、日々の立ち振る舞いや意思決定の際に参照されるガイドラインとなります。簡潔で分かりやすい言葉で表現することが重要です。
- ステップ3で定義した価値観それぞれについて、「この価値観を実現するために、私たちは具体的にどのような行動を取るべきか」を考え、箇条書きの行動原則として書き出します。
- ポイント:
- 「〜する」「〜しない」といった、肯定または否定の具体的な行動を記述します。
- 行動原則は多すぎても参照しきれないため、各価値観につき数個に絞り込むことも検討します。
ステップ5: まとめと今後の活用計画(15分)
- 目的: ワークショップの成果を確認し、今後の活用方法について合意する。
- 手順:
- 定義されたチームの価値観と、それに基づく行動原則を一覧化し、全体で確認します。
- これらの成果物を、チームメンバーがいつでも参照できるよう、ドキュメントとしてまとめたり、チームスペース(例: Wiki、物理的な壁)に掲示したりする方法を話し合います。
- これらの価値観・原則を、今後のチーム活動(例: 意思決定、採用、振り返り)でどのように意識し、活用していくかを簡単に話し合います。
- 最後に、ワークショップ全体を振り返り、感想や気づきを共有して終了します。
- ポイント:
- このワークショップが一度きりで終わるのではなく、チームの成長に合わせて定期的に見直す必要があることを共有します。
- ワークショップの結果を形にし、チーム全員が容易にアクセスできるようにすることが、浸透の第一歩です。
ワークショップを成功させるためのポイント
- ファシリテーターの役割: 中立的な立場で、参加者全員が安心して発言できる場を作り、時間を管理し、議論が脱線しないように軌道修正を行うことが重要です。必要であれば、チーム外の経験者にファシリテーションを依頼することも有効です。
- 心理的安全性の確保: どのような意見も尊重されるという雰囲気づくりが最も重要です。否定的なフィードバックや批判を避け、傾聴の姿勢を全員が持つように促します。
- 時間管理: 各ステップに目安時間を設定し、進行が遅れている場合は議論を区切る勇気も必要です。全ての価値観を深く掘り下げるのが難しい場合は、特に重要度が高いと思われるものに焦点を当てるなどの工夫をします。
- 形式より本質: ツールや手法にこだわるのではなく、チームメンバーが本音で語り合い、互いの考えを理解し、チームとして「何を大切に生きていくか」を共に作り上げるプロセスそのものに価値があります。
- 継続的な参照と見直し: 定義した価値観や原則は、壁に貼るだけでなく、日常の会話や会議で参照したり、振り返りのテーマとして取り上げたりすることで「生きた」ものになります。チームのフェーズや状況変化に合わせて、定期的に(例: 半年〜1年に一度)見直す機会を持つことも推奨されます。
まとめ
チームの価値観や行動原則を共有し定義するワークショップは、チームの基盤を強化し、連携を密にし、より自律的で効果的な活動を行うための強力な手段です。時間はかかりますが、チームメンバーが腹を割って話し合い、共通の「大切にしたいこと」を見つけ出すプロセスは、チームにとってかけがえのない財産となります。
ぜひ、この記事を参考に、皆さんのチームでも価値観共有ワークショップを実践し、チーム文化の醸成とパフォーマンス向上に繋げてください。